2011-07-31 京都会館の存続を巡って-「COLUMNS」
京都会館の存続を巡って

 京都会館(京都市左京区岡崎・1960年竣工)を建て替えてオペラハウスにするという昨年末の京都市の決定はあまりに唐突だった。そこに至る経過をたどってみる。

 舞台設備が時代に合わないものとなっており、現代的な設備に改修する必要性はだいぶ前から言われていた。また耐震改修やバリアフリー改修の必要性も明らかだった。京都市では、各界の代表を集めた京都会館再整備検討委員会を設置し、検討を始めた。

 再整備検討委員会は、2005年7月13日の第1回から、2006年7月13日の第6回まで開かれた。

議事録は公表されている。
http://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/cmsfiles/contents/0000005/5702/tekiroku_1.pdf(第1回)
http://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/cmsfiles/contents/0000005/5702/tekiroku_2.pdf(第2回)
http://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/cmsfiles/contents/0000005/5702/tekiroku_3.pdf(第3回)
http://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/cmsfiles/contents/0000005/5702/tekiroku_4.pdf(第4回)
http://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/cmsfiles/contents/0000005/5702/tekiroku_5.pdf(第5回)
http://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/cmsfiles/contents/0000005/5702/tekiroku_6.pdf(第6回)

オペラの上演に対応したホールが欲しいという意見は、興行者側の委員から出ているが、議論の中でそうした意見は、現実的な妥協点に収束していったことが読み取れる。オペラの上演に対応するホールをつくるには、C案(全面建替え)とする必要がある。しかし委員会での共通認識は、A案(建物内部の改修)またはB案(一部増築を伴う改修)という方向に落ち着いていった。

こうした議論を踏まえて2006年12月に「京都会館再整備の基本的な方向性に関する意見書」が提出された。
http://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/cmsfiles/contents/0000017/17030/ikensho.pdf

京都会館をどう位置づけるかについて、「オペラやバレエなどにも対応できる本格的な芸術ホールとして位置付け」という意見は、共通認識になっていない個別意見に分類されている。また競合施設との比較検討においても、対象に選ばれているのは、大阪厚生年金会館、神戸国際会館という多目的ホールであり、オペラハウスとの比較は行なわれていない。

 この意見書を基に京都市内部で検討が進められたはずだが、4年後に京都市が出した結論は、再整備検討委員会の意見書に反して、オペラハウスへの建て替えであった。

京都に国内最大級オペラ劇場 市方針、事業費100億円
 (2010年12月24日 日本経済新聞)

「京都市は同市左京区の文化施設「京都会館」を全面改修し、国内最大級のオペラハウスに衣替えする方針を固めた」とある。「全面改修」となっているが、オペラハウスは、コンサートホールとは舞台や客席のつくりが全然違うので、実際には建て替えになる。

年が明けて、京都市から正式発表となる。

□京都に最大級オペラ劇場 2000席規模を計画 市が正式発表、意見公募
 (2011年1月24日 日本経済新聞)

ここでも「改修」という表現が使われており、予備知識がない人には、これが建て替えであることがわからないような文面になっている。オペラハウスでは、舞台装置を収納するために30m以上の建物の高さを確保しなければならないが、京都会館が建つ岡崎公園は15mの高さ規制がかかっている。法規制にどう対処するかは、この記事では明らかにされていない。(現状でも建物は15mを超えているが、既存建物だということで規制が免除されている。)もし仮に、舞台や客席を地下に埋めるような案が想定されているとすれば、それは「改修」どころでは済まない話で、明らかに建て替えということになる。それに大規模な地下工事があるとすれば、100億の予算で完成するとは思えない。

 2月になってこんなニュースが飛び込んで来た。

京都会館命名権、ロームに 公募せず売却、市会委紛糾
 (2011年2月8日 京都新聞)
□「京都会館」命名権 50年で52億円 「ローム」獲得
 (2011年2月8日 読売新聞)

京都市は市議会に諮らずに水面下で交渉し、命名権(ネーミングライツ)の売却を決めたのである。

京都市は、財政再建団体に転落する寸前であり、財政的な余裕はない。事業費の半分を命名権売却で賄えるとなれば、それに飛びつくのは不思議ではない。だが、再整備検討委員会の意見書を事実上反古にしたオペラハウスへの方針転換と、ロームへの命名権売却は、リンクしているのではないか。状況証拠しかないにしても、そうした疑問が生じるのは当然だろう。いずれにしても、公共という概念のあり方がここでは問われているのだ。

 5月になって、京都市は「改修」が実は建て替えであることを認める。そして自ら定めた法規制をいとも簡単に緩和してしまう。

オペラ誘致へ建て替え案有力 京都会館再整備
 (2011年5月23日 京都新聞)
京都会館の建て替え、京都市が高さ制限緩和の方針
 (2011年6月26日 京都新聞)

5月の時点では「建て替え案有力」という報道だったが、6月には正式に「建て替え案を採用」となる。増築案と建て替え案とを比較した上での結論だとしているが、あらかじめ京都市としての結論は出ていたのだろう。「計画では、建築家前川國夫(まま)氏が設計した建物の保存改修を基本とし、その上で第1ホール(2千席)は解体し建て替える」と記事にはある。一見前川國男の設計を尊重しているかのような紛らわしい表現だ。ヴォリュームの過半を占める第1ホールを建て替えるということは、京都会館という建築を全面否定するに等しい。

 一部分だけが残ったとして、それで建築が保存されたことにはならない。空間構成が生きるのでなければ意味がない。建築は装飾ではないのだ。

 京都会館には正面と呼ぶべきものがない。あえて言えば南側(二条通り側)だが、それでも歩道がそのまま会議場の下をくぐって中庭に流れ込んでいるようで、建物の輪郭によって人の動きがせき止められることはない。中庭は、中でもあるし外でもあるのだ。その中庭に面して、第1ホール、第2ホール、会議場の入口がある。第1ホール入口のキャノピーを兼ねたテラスは、カフェテラスにつながっている。中庭に立つとき、何かの正面に向かい合うという感覚はまったくない。つまり威圧感がない。中庭にとどまるのもよし、目的とするホールに入っていくのもよし、振る舞いを人間の側にゆだねるような大らかさが、そこにはある。

Text: 斉藤昭彦 Date: 2011年07月31日 15:06

■京都会館の存続を巡って-「COLUMNS」

関連リンク
2011-08-01 京都会館の存続を巡って(続き)-「COLUMNS」
2007-11-08 京都会館再整備検討委員会-「京都市情報館」
2006-12 京都会館再整備の基本的な方向性に関する意見書-「京都会館再整備検討委員会」
2010-12-24 京都に最大級のオペラ劇場-「日本経済新聞」
2011-02-08 京都会館命名権、ロームに 公募せず売却、市会委紛糾-「京都新聞」
2011-05-23 オペラ誘致へ建て替え案有力 京都会館再整備-「京都新聞」
2011-06-23 京都会館の建て替え、京都市が高さ制限緩和の方針-「京都新聞」
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by 2011-kyoto | 2011-07-31 00:00 | 2011/07
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