1961-07-20 京都会館 (作品) (日本建築学会賞特集) 前川國男-建築雑誌
表彰作品 京都会館 -前川国男

建築はひとりの仕事ではないという事,その事がこの30年建築に物心ついてこのかた私の脳裏をはなれなかった事のひとつであります。建築がひとつ誕生する,そしてそれが多くの人々によって賞讃され又拍手されるという事は,少くとも建築家冥利につきる事であるには相違ないのですけれど,そのひとつの建築の生れるまでの企画からそして施工に到る長い時間にわたって,この建築に注がれた多数の人々の心労苦心を思いかえす時,ただ一人の建築家が拍手され喝采される事の何か腑におちない気持,そういったものを大方の建築家達は一体どう考えているのか,又どう考えたらいいのか私は常に満足のいく解答を得る事ができないままに今日に到ってしまいました。あの人がもしもあの時ああいってくれなかったら,そしてこの人があの時こうしてくれなかったなら恐らくこの建築は今日こうした姿で建てられなかったかもしれないといったいろいろな事柄が,企画から設計,施工に到る長い期間に必ず,それも夥しい数におよんでいる事を発見するのが普通の事でしょう。
われわれの周囲をとりまく無数の出来事が無数の所謂因縁の目も及ぱぬきづなによって結び合わされている事は当然でありますが建築が出来るにも,それが生れるまでの無数の因子,あるいは運命といったものを思わずにはいられない。企画から設計からそして施工に到る長い過程に生起したあらゆる事柄,そしてそれが幸福な組合せにめぐりあった時のみによい建築が生れる。そしてそれが不幸な組合せであった場合にはどんな名建築家がおったとしてもロクな建築になり得ないという事をしみじみと感じている次第です。
そうした意味においてこの京都会館はひとつの貴重な経験であり又実例であった事を思わずにはいられない。私共がたづさわる仕事はいろいろな事由から公共建築が多いめぐりあわせになっているような気がします。公共建築はどうしても予算的に非常に切りつめられたものである事が通例であります。京都会館もその例にもれず予算は非常に窮屈なものでありました。しかも今回学会賞をいただく光栄をかち得たとすれば,先程申したこの建築を成切させる種々な条件がわれわれにとって非常に幸いしたという一事につきると思います。
いい音楽堂が欲しいという京都市民の熱望にこたえて,高山京都市長をはじめ市の理事者,当事者達の熱意,それは御世辞ではなく,実にこの建築の実現に大きな役割りを果していました。建築ができたあとも,この会館を京都市民のあるいは京都の青少年の,ひとつの「生活道場」として活用していくという市長をはじめ当局者の熱意には,正直のところ甚だ心をうたれた次第ですが更に設計から施工の実務に際しての,市の建築担当の小池氏をはじめとする建築課の諸氏の御協力は此の建築の成功に特筆大書して記さねばならない貢献をしておられる事をこの際特に明らかにしたいと思います。
役所のしきたりも規則もわきまえぬ私達が公共建築を担当します際に常々戸迷いする問題を,それが設計の,或は監理のさまたげにならぬよう,又は無益のエネルギーの損失にならない様に,細心の注意と親切をもってうまくかじをとっていただいたのは他ならぬ小池氏をはじめとする市の建築課の方々でありました。私達が貴重な市民の金を自信をもって無駄なく使い得たと公言し得る直接最大の功労者はこの方々であったといっても過言ではないと思います。私達の会館が日本建築学会賞に価するというなら,その光栄は市長をはめじ企画の当初より辛酸をなめられた当局者,そして苦労された施工者の方々は勿論のことでありますが,この縁の下の力持ちに甘んじて終始私達を助けていただいた此の方々にも是非ともわけで頂きたいと願わずにはいられない。
建築的評価についてはそれぞれの専門家,そして誰よりも京都の市民が時と共にその審判を与えて下さる事と思いますが,更にわれわれの立場から一言許して頂けるならば,もしも30年前あの不吉な日本の激動期に於いて今日の京都会館が建てられたとするならば,その当時所謂日本趣味建築で私達を苦しめられた諸氏はこの建物にどんな批判を与えられたであろうか。それを知りたい気持ちにかられる次第であります。
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◎京都会館
正会員前川国男君
数々の古い名建築が残り,千有余年にわたる古都としての雰囲気が今なおゆたかに漂っている京都東山地区に近代建築を建設するという課題は建築家にとってなかなかむづかしい問題である。このことは、過去において、無慚に失敗した幾つかの例があることによってもよく理解されるのであるが,京都会館はこの難問に見事に答えたものである。
二つのオーディトリウムと一つの国際会議場をL字形のブロッグプランに収めた簡潔な処理。打放しコンクリートを主調とし,鉄・硝子・石・木材等の生のままの素材を駆使して形成された空間が,禅寺のもつ素朴ではあるが力強い荘厳にも似通うものをいみじくも現出していること。オーディトリウムの外側の壁画に試みられた陶板画が,強く重い調子の中に明るい華やかな和らぎを与えている効果, これは純粋芸術と建築との見事な融合を示すものとして高く評価されるものであるが, これらの綜合として,京都会館は禅寺が昔の社会の精神的道場としての造形を持っていたのに対し,近代市民生活の共同の場としての造形を打出すのに成功している。即ち前記のような難問を乗り超えて,現代の荘厳を実現し得たものであり, これは世論も遍く認めるところであって, この故を以て,この作品に対し日本建築学会賞を贈るものである。

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■京都会館 (作品) (日本建築学会賞特集) 前川國男-建築雑誌
建築雑誌 76(900), 368, 1961-07-20 社団法人日本建築学会

1965-12-01 京都会館:前川國男-「京都会館五年の歩み」
2011-03-18 京都会館保存要望書-「社団法人日本建築学会」
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by 2011-kyoto | 2001-07-20 00:00 | その他
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