2012-03-27 京都会館第1ホールの建替えに関する意見書-「京都会館の建替え問題を考える弁護士一同」
京都会館第1ホールの建替えに関する意見書-「京都会館の建替え問題を考える弁護士一同」

3月27日(火)京都市に下記意見書が提出されました。

京都市長 門 川 大 作 殿

平成24年3月23日

京都会館第1ホールの建替えに関する意見

京都会館の建替え問題を考える弁護士一同(有志)

京都市は、平成23年秋、「京都会館の建物価値継承に係る検討委員会」(以下「価値検討委員会」という。)を立ち上げ、10月4日に第1回の会合が開かれた。そして京都市は、価値検討委員会に対し、第1ホールについては建替えるべしとして、建替案(以下「本件建替案」という。)を提出した。
そして、本年3月6日の第4回の会合が開催され、その中でようやく本件建替案についての景観検討写真を委員会に提出したが、これにより、本件建替案には、重大な法的問題点が存することが明らかになった。
そこで我々は、本件改築案について、以下のとおり意見を述べる。

意見の趣旨

1 京都市が、「京都会館の建物価値継承に係る検討委員会」(以下「価値検討委員会」という。)に提出している京都会館の改修案のうち、第1ホールの建替案(以下「本件建替案」という。)については、以下の理由により、撤回すべきである。

(1) 本件建替案は、京都市眺望景観創生条例に違反する。

(2) 本件建替案は、岡崎文化・交流地区地区計画に適合しない。

(3) 本件建替案は、市民に向けられた説明が極めて不十分であるうえ、市民意見の聴取がほとんどなされていない。

2 京都市は、岡崎公園地区特別修景地域内の琵琶湖疏水右岸についても、景観地区として、岸辺型美観地区(一般地区)に指定すべきである。

3 京都市は、京都会館の解体工事に着手することなく、音響効果の改善等についての保全的改修を行った上で、市民の利用を速やかに再開すべきである。
そのうえで、長期的な改修計画について、徹底した住民・市民参加と建築・景観・都市計画・法律等各分野の専門家の関与のもとに、慎重に合意形成を図るべきである。

意見の理由 

〇見出しと主な項目のみ抜粋して記載しています、詳細はこちらをご覧ください
京都会館第1ホール再築についての意見書(本文).pdf
京都会館意見書・添付資料(その1).pdf
京都会館意見書・添付資料(その2).pdf
京都会館第1ホール再築についての意見書(名簿).docx

1 京都会館の立地の法的状況
(1) 京都会館の立地(以下「本件敷地」という。)の用途地域は、第二種住居地域であり、容積率200%、建ぺい率60%であって、15mの高度地区に指定されている。1
また、平成24年2月1日に計画決定された岡崎文化・交流地区地区計画区域内にある。この地区計画により、本件敷地部分は、建築物の高さの最高限度を31メートルとするように変更された。2
(2) 本件敷地の景観保全に関しては、風致地区第5種地域であり、本年2月1日に規定された「岡崎公園地区特別修景地域」に指定されている。3
(3) 本件敷地の眺望景観の保全については、琵琶湖疏水の疏水界からの水平距離が30メートルの範囲は「近景デザイン保全区域」それ以外は「遠景デザイン保全区域」に指定されている(資料⑭)。4


2 本件建替案の京都市眺望景観創生条例に対する適合性について

(1) 本件敷地のうち、琵琶湖疏水の疏水境からの水平距離が30メートルの範囲は、京都市眺望景観創生条例に基づく眺望空間保全区域等の指定についての別表により、次のとおり定められている。5

(2) 本件建替案は以下のとおり、上記条例に違反する。
   ア 上記基準1及び2(2)違反
   イ 上記基準2(1)違反
   ウ 上記基準2(3)(5)違反

(3) 上記基準1違反(良好な景観の阻害)について、以下のとおり補足する
   ア 「良好な景観」とは何か
   イ 以上のことから明らかなとおり、「良好な景観」とは、個々人の嗜好を超えた客観的な価値であるそして、その価値を判断するにあたっては、問題となる建物が存在する地域における土地建物利用の実態としての地域的特性といかに調和しているかを検討することが決定的に重要である。
   ウ 前川國男の京都会館の設計
   エ したがって、本件建替案は、琵琶湖疏水及びその周辺の樹木、建築物等によって一体的に構成される良好な景観を阻害することが明らかであるから、上記基準1に違反する。

(4) 今後の景観政策に与える影響が無視し得ないこと

3 本件建替案の岡崎文化・交流地区地区計画に対する適合性について

(1) 岡崎文化・交流地区地区計画においては、本件敷地の建築物等の形態または色彩その他意匠の制限として、「京都会館の近代性と伝統の融合を感じさせる風格と魅力ある建築物と調和すること」と規定されている。

(2) そうであれば、京都会館第1ホールを建て替えるにあたっては、第2ホールおよび議場その他の従前の京都会館の建築物と調和しなければならない。

(3) したがって、本件建替案は、岡崎文化・交流地区地区計画に適合しない。

4 本件建替案の市民に対する情報提供ならびに市民意見の聴取状況

(1) 本件建替案の市民に対する情報提供
   ア 京都市は、価値検討委員会に対して、本件建替案の内容を説明する資料を提出している。6しかし、その資料には以下のような問題点があり、市民が本件建替案の内容を正しく把握できるものとは到底言えない。
   イ 第2回価値検討委員会における資料の問題点
   ウ 第3回価値検討委員会における資料の問題点
   エ 第4回価値検討委員会における資料の問題点
   オ 以上のとおり、本件建替案の市民に対する情報提供は、正確性を欠く極めて不十分なものと断ぜざるを得ない。

(2) 市民意見の聴取状況
   ア 京都市は、従前の再整備検討委員会において、京都会館の改修について、最低限の修復案(A 案)も含めて検討していた。
しかし、その後の市民への説明においては、修復案については何らふれられておらず、京都会館の建築物としての歴史的、文化的価値や、建て替えによる東山を背景とする景観への影響等についても、ほとんど説明しないまま、本件建替案を価値検討委員会に諮っている。
   イ また、京都市では、2007 年に新景観政策を施行し、高さ規制の例外手続は、かなり厳格な「特例許可制度」(「京都都市計画(京都国際文化観光都市建設計画)高度地区の計画書の規定による特例許可の手続に関する条例」)によるものとした。
この手続がとられていれば、高さ制限を超える建築物については、周辺住民に周知させる説明会の開催(7条)や景観審査会への意見聴取(13条)の手続等が義務づけられていることから、今回のように、市が単独で建替案を策定することはできないところであった。
にもかかわらず、京都市は、京都会館建て替えのために、地域住民のいない自らの所有地において「地区計画」制度を使って高さ規制を緩和してしまったために、住民の意見を十分に聞くこともなく、また景観の観点から景観審査会の検証を受ける機会をも自ら放棄してしまった。
   ウ いうまでもなく、京都市の資産は、京都市民の共有(総有)財産である。したがって、その変更については、本来、実質的所有者である市民に対し、広く意見を聴取してそれを提案に反映させなければならない。
しかもそれが、市民会館という市民が直接利用する施設であれば尚更であろう。
しかも、京都市は、市民意見を慎重に聞き、第三者で組織する審査会の審査を経ることとする特例許可制度を自ら策定しておきながら、結果的に市民意見を聴取する義務を負わない(自らの所有地における)「地区
計画」という、およそ「地区」計画というに値しない手段を用いて建替案を合法化する方途を選択した。このことは、市民に対する背信ともいうべき所為であり、厳しく反省されなければならない。

5 以上のとおり、本件建替案は、(1)京都市眺望景観創生条例に違反することが明らかであるとともに、(2)岡崎文化・交流地区地区計画に適合せず、(3)市民に向けられた説明が極めて不十分であるうえ、市民意見の聴取がほとんどなされておらず、手続的にも極めて問題が大きいことから、京都市は、本件建替案を撤回すべきである。

6 景観地区の指定について

(1) 岡崎地域を流れる琵琶湖疏水については、基本的にその両岸が景観地区のうち岸辺型美観地区に指定されている(後掲⑬の水色部分参照)。7そして、岸辺型美観地区に指定されると、建築物等のデザイン基準が適用される。同基準は、「形態意匠の制限に係る共通の基準」と「別表」に定められる地区ごとの基準の2つの基準によって形態等が制限される。

(2) 岸辺型美観地区において、高層建築物(高さが15mを超えるもの)を建築する場合には、以下のとおりのデザイン基準が適用される。8

(3) ところで、岸辺の美観は、基本的に両岸について同様の規制をなすことにより実現される。このことは、琵琶湖疏水について基本的に両岸が指定されていること、琵琶湖疏水から分流する白川についても両岸が指定(歴史的町並み地区型)されていることからも明らかである(後掲⑬参照)。これに対し、岡崎公園地区特別修景地域内の琵琶湖疏水右岸についてのみ岸辺型美観地区の指定がなされていないのは、いかにも不合理である。
察するに、景観地区の変更をなした際に、すでに京都市勧業館、国立近代美術館があったことから、これに配慮して指定をしなかったものと思われるが、それは正しい選択ではない。
景観の保全には、長い時間を要する。いわゆる「既存不適格」の出現を恐れて規制を現状にあわせると、いつまでたっても良好な景観は実現しない。
京都市は、市の中心部田の字地区において、「既存不適格」の出現を恐れず、大幅なダウンゾーニングを行った。つまり京都市は、良好な住環境と景観を導くために、市民に対して「既存不適格」の受け入れを求めたのである。これは、英断と評価されてよい。しかし、それと同時に京都市は、市民に対し、自らも「良好な住環境と景観」を積極的に実現すべき責務をより強固に負ったというべきである。
京都には、自らが率先して、良好な景観を実現し、市民に範を垂れる姿勢がなければならない。そうでないと、京都市は「市民には発想の転換を求めながら、自らは何もしない。」と厳しく非難されることになろう。

(4) 以上より、京都市は、岡崎地域の他の区域と同様に、岡崎公園地区特別修景地域内の琵琶湖疏水右岸についても、景観地区として、岸辺型美観地区(一般地区)に指定すべきである。
その上で、本件建替案が、【外壁等】において、「岸辺の風情を維持するため、圧迫感を低減し、水平方向を強調する形態意匠とすること。」とのデザイン基準を満たさないものとして、撤回すべきである。

7 京都会館第1ホールの改修のありかたについて

(1) 京都市は、京都会館第1ホールを改修する目的の一つとして、「世界水準の総合舞台芸術」の上演を掲げる(京都会館再整備基本計画)。また、価値検討委員会における京都市の説明においても、びわ湖ホール等に奪われてしまったオペラ等の公演を呼び戻したいとの意向が散見される(価値検討委員会の各回の摘録)。
しかし、本件建替案は、奥舞台及び袖舞台がない(少なくとも不十分な)ものとなっており、日本で数か所しかない4面舞台を備えたびわ湖ホールに到底及ぶものではない。
ただ翻って、京都会館を規模や舞台機能の面から単純に他と比較し、その点で他と劣るから建て替えてしまおうという発想で本当に正しいのかどうか、今一度冷静かつ慎重に見極めなければならない。

前述のように、京都会館の設計思想には、「東山一帯に囲まれた平面的な岡崎公園と、その水平的性格を象徴するが如き疏水の流れ、それに既存の建物、公会堂、勧業館、美術館等の中層建物の高さなどを考え合わせ」た上でもたらされる「環境との調和」があった。

そうであれば、京都会館第1ホールを改修するにあたって重要な視点は、他のホールとの単純な規模・機能の比較ではなく、「環境との調和」を念頭においた上での「標準的なものをここで造ろうとしているのではなく、
京都会館という特別な建築、その価値継承をきちっと維持するための特別なホールと考えなければいけない」(検討委員会における中川委員の発言)という視点が重要であると思われる。

(2) また、京都市では、琵琶湖疏水の開削によって形成された岡崎地区の優れた景観を次の世代に継承することを目的として、同地区の文化財保護法に基づく重要文化的景観への選定を目指した調査検討事業を、平成22年度から実施している。
上述のように、京都会館第1ホールは、東山一帯に囲まれた平面的な岡崎公園と、その水平的な性格を象徴するが如き疏水の流れ、それに既存の建物、公会堂、勧業館、美術館等の中層建物の高さなどを考慮して、建物全体を中層の建物の高さに収め水平に延びた屋根面から大ホールの屋根、小ホールの舞台フライの部分のみを突出せしめる水平線的な構成をとられており、これによって、永きに亘って岡崎地区の優れた景観を形成してきたことは、疑う余地のないところである。
そうであるとすると、京都市が本件建替案を強行することは、岡崎地区を文化財保護法に基づく重要文化的景観に選定することを阻害する行為といわざるを得ず、自己矛盾の行動であるとの誹りを免れないであろう。

(3) 京都市は既に本年4月1日から京都会館の市民の利用を中止し、本年6月には京都市議会で京都会館の解体工事に伴う予算の議決を受けて、本年9月には解体工事に着手することを計画している。
しかしながら、京都会館の景観は失われてしまえば2度と戻らない。ましてや、京都会館と岡崎疏水の景観は、市民・国民の共有財産であり、これを、行政自らが破壊することに拙速であることは、厳につつしむべきである。
他方、京都会館の利用者、市民からは、音響効果を改善することと、早期の利用再開が強く望まれているところである。
よって、京都市は、京都会館の解体工事に着手することなく、音響効果の改善等についての保全的改修を行った上で、市民の利用を速やかに再開すべきである。
そのうえで、長期的な改修計画について、徹底した住民・市民参加と建築・景観・都市計画・法律等各分野の専門家の関与のもとに、慎重に合意形成を図るべきである。

(4) 本件改築案は、現在価値検討委員会で審議中であるから、京都市は、価値検討委員会の答申を受けて、本件改築案を実施するかどうかを決するのが本来である。
ところが、京都市は、価値検討委員会の答申も出ないままに、すでに京都会館第1ホールの解体予算を市議会に上程しており、価値検討委員会の答申内容の如何に関わらず、第1ホールを解体することをすでに決定していると評価されてもやむを得ないが、これでは、価値検討委員会は単なるお題目、添え物でしかない。

市民意見を慎重に聴取することもなく、委員会答申も形ばかりであっては、京都市は、京都会館の改築について、市民不在で押し切ろうとしていると考えざるを得ない。
このような拙速が、将来に回復しがたい遺恨を残すことは明らかである。
後戻りのできる今、この態度が改められなければならない。

以 上
1 http://www5.city.kyoto.jp/tokeimap/detmap/yoto/kyo050-5-10.htm
2 http://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/cmsfiles/contents/0000070/70272/okazaki.pdf
3 http://www5.city.kyoto.jp/tokeimap/detmap/keka/kyo050-5-10.htm
4 http://www5.city.kyoto.jp/tokeimap/detmap/cyob/kyo050-5-10.htm
5 http://www.city.kyoto.jp/somu/bunsyo/REISYS/reiki_honbun/k1021249001.html
6 http://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/page/0000111189.html
7 http://www5.city.kyoto.jp/tokeimap/detmap/keka/kyo050-5-10.htm
8 http://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/cmsfiles/contents/0000056/56458/dezain_kijun.pdf


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■京都会館第1ホールの建替えに関する意見書-「京都会館の建替え問題を考える弁護士一同」
 京都会館第1ホール再築についての意見書(本文).pdf
 京都会館意見書・添付資料(その1).pdf
 京都会館意見書・添付資料(その2).pdf
 京都会館第1ホール再築についての意見書(名簿).docx



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by 2011-kyoto | 2012-03-27 22:06 | 2012/03
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