2012-03-28 京都会館の建物価値継承に係る検討委員会提言(案)
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委員会提言(案)*
(*)3月28日の「京都会館の建物価値継承に係る検討委員会-第5回(最終)」にて委員より京都市と基本設計業務受託者に対して委員会の最終答申案として提言されたもの
pdf委員会提言(案)
平成24年3月28日
京都会館の建物価値継承に係る検討委員会提言(案)
日本を代表する建築家である前川國男の設計によって昭和35年に造られた京都会館は、京都・岡崎地域に建ち、戦後のモダニズム建築の傑作である。この建築は日本建築学会賞等、数々の賞の受賞が示すように、専門的に高い評価を与えられているだけではなく広く市民に愛されて今日に至った。
一方で、築後50数年を経たこの建築は、各所で老朽化が進んでいるだけでなく、会館としての機能が、今日求められるものと大きく隔たったものとなっていることは、誰の目に見ても明らかなものとなった。これまで市民に愛されてきた建物を、これからも長く愛されるようなものとして保つためには、必要にして適切な手入れを持続していかなければならない。
本委員会は、歴史的建築として評価を得ている京都会館の改修において、京都市が作成した再整備基本計画を前提としながら、その中で建物価値をどのように継承していくのか、関係する専門家により検討する委員会として、京都市により組織されたものである。計5回の委員会で、目下作成中の基本設計案(平成24年5月完成予定)も参考としながら検証を重ねた。その議論は、外観デザインはもとより、中庭を中心とした空間構成、またそれらの構成要素である各部材・素材に至るまで、時には、京都市の新景観制度のあり方にも及んだ。京都会館に造詣の深い各委員の熱い思いによる、公開の場で行われた大変有意義で真撃な議論であった。
議論から導かれた提言については以下に示すとおりであるが、提言が実現された暁には、機能向上を図りつつ建物価値を継承するという近代建築再整備の観点に立って、近代建築を保存・継承する新たな道筋をつけることができると確信する。
1.基本的な考え方
歴史的な建築の価値を保存しながら、一方で現状では不十分となった機能を加えるという改修となるために、保存と改変のバランスを考えることが必要となる。京都市が提起した「岡崎地域活性化ビジョン」などにしたがえば、確かに京都会館の機能改修は重要である。しかし一方で、岡崎地域は今後「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律(歴まち法)」 や「文化的景観」の指定も計画されており、京都会館の歴史的な建物価値はますます重視されることになるのは明らかである。したがって、機能の向上や利便性から計画される改修であっても、それが歴史的な建物価値を損なうことのないよう取り組まなければならない。
2.空間構成の継承
・ピロティによって中庭に導く「開かれた公共空間」の特質を守ること。
・中庭から第1ホールのホワイエを透過して冷泉通りまで見通せる空間の流動性を保つこと。
・ホワイエ、ロビー空間を拡充しようとする際には、現建物の持つ全体の空間構成や外観意匠の価値を十分に尊重して行うべきである。
3. 外観意匠の継承
・現・京都会館の外観意匠における特質は日本の建築的伝統との近さである。この印象は、大庇・手すり・バルコニーによって形成される立面が、日本建築における軒・縁・高欄による立面と似通うことから与えられる。こうした立面構成の価値を維持継承できるようにしなければならない。
・現・京都会館の上記の特質をとりわけ明瞭に感じさせる中庭に面した外観については、特にこのことが求められる。
・サッシ割りなど細部の形状について可能なかぎり原型を保つこと。
・第二ホールのホワイエはガラス面を透過して外観と一体化している部分であるから、その空間構成の継承に対しては十分な配慮を払うこと。陶壁画についてもその芸術性に敬意を払いつつ、継承に努めること。
・第一ホールのフライタワーの形姿については、大庇で表現された大屋根の下に諸々の空間を抱込み、大屋根の上のマスは空や山並みに融け込むという原設計の外観意匠の全体的統一性の上からも十分な配慮を払うこと。
4. 景観構成要素としての意義の継承
・フライタワーの高さ・形状については、岡崎地域、ひいては東山山麓の風致を損なわないよう最大限の配慮を払い、現在、進められている重要文化的景観の調査検討および歴史的風致維持向上計画の策定との整合に留意しつつ、十分な検証をおこなうこと。
・景観シミュレーションを見ても、舞台内高さ27mを確保した基本設計案のフライタワーが周辺の風致に与える影響に配慮することが必要であることは明らかである。いかにフライタワーの高さとボリュームを抑えていくかがデザインの要であり、慎重なデザイン処理を行うべきである。
・新築される第一ホール部分の形状・色彩・素材についても、岡崎地域の風致を損なわないよう精緻な景観シミュレーションを行うなど最大限の配慮を払うこと。
5. 材料の継承
・既存の建築構成要素は、後補部分を除き保存・再利用する。京都会館の建物価値の本質とも言える外観にかかわる部位については、とりわけ慎重な保存・再利用が求められるが、内部の構成要素も、できる限り保存・再利用をすべきである。
・再利用が困難な場合は、できる限り同一素材・同一形状での復原をおこなうこと。
6. 京都会館の建物価値を最大限継承するための対応
・本検討委員会で議論し、確認した京都会館の建物価値を最大限生かした再整備となるよう、再整備基本計画では言及されていない空間利用についても積極的に検討するなど、再整備基本計画を幅広く解釈して柔軟に運用することが必要である。
◆京都会館の建物価値継承に係る検討委員会委員
石田潤一郎 京都工芸繊維大学工芸科学研究科教授(日本建築学会推薦) 副委員長に選任
伊藤久幸 財団法人新国立劇場運営財団技術部長
衛藤照夫 社団法人京都府建築士会会長
岡崎甚幸 武庫川女子大学生活環境学部建築学科教授、京都大学名誉教授 委員長に選任
澤邉吉信 岡崎自治連合会会長
道家駿太郎 社団法人日本建築家協会近畿支部京都会会長
中川理 京都工芸繊維大学工芸科学研究科教授(日本建築学会推薦)
橋本功 前川建築設計事務所所長
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