2012-08-08 京都会館再整備基本設計に対する意見書-「DOCOMOMO Japan」 
各位
拝啓、時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
日頃よりDOCOMOMO Japanの活動に格別のご理解とご支援を賜り、厚く御礼申し上げます。
この度、本会から、門川大作京都市長と、京都会館の管理者である京都市音楽芸術文化振興財団に、別紙のような「京都会館再整備基本設計に対する意見書」を提出いたしました。
この建物の歴史的・建築的価値を尊重する私どもの趣旨をご理解いただき、
ぜひご支援下さいますようお願い申し上げます。
敬具
2012年8月8日
DOCOMOMO Japan代表 鈴木博之(青山学院大学教授・東京大学教授)

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2012年7月27日
京都市 市長 門川 大作 様
京都会館 管理者 京都市音楽芸術文化振興財団 御中

DOCOMOMO Japan 
代表 鈴木博之
(青山学院大学教授、東京大学名誉教授)

京都会館再整備基本設計に対する意見書

拝啓、時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
本会は、20世紀の建築遺産の価値を認めその保存を訴えることを目的のひとつとする国際的な非政府組織の日本支部です。別添にありますように、本会は2011年3月2日に「京都会館保存要望書」を提出しています。

昨年2011年度、京都市によって組織された「京都会館の建物価値継承に係わる検討委員会」は、「機能向上を図りつつ建物価値を継承するという近代建築再整備の観点に立って、近代建築を保存・継承する新たな道筋をつけることができる」とした6項目からなる提言を纏め、その第一項後段に「機能の向上や利便性から改修される計画であっても、それが歴史的な建物価値を損なうことのないよう取り組まなければならない」としています。この第一項後段は20世紀の建築遺産の保存・継承において、「リビング・ヘリテージ(生きている文化遺産/使われる建物としての継承)」の考えとして本会も共感するところであります。

ところが今般、この提言を受けたはずの基本設計が発表されましたが、「京都会館再整備基本計画(2011年6月)」と同様に「第一ホールは建て替える」とされました。本会としては、京都会館が歴史的建造物として文化的価値を持ち続けるための十分な検討もなく、京都会館の過半を占める第一ホールを解体除却したうえで、建物の価値継承がされるという考え方を容認することはできません。これらは、文化財に関する国際学術諮問機関であるICOMOS、DOCOMOMOに係わる専門家が作成した「マドリッド・ドキュメント(20世紀建造物の保存に関するガイドライン)*1 」などに照らし合わせてもこの不合理は明らかであります。

このガイドラインにも示されているように、継承しようとする建物の価値をどこに定めるのかということを明らかにしたうえで、新たな要求性能を検討し、それが継承すべき価値を損なわないかの確認を具体的かつ精緻に行いながら、最小限の改修を施す計画を合理的方法論に基づいて策定することが改修を伴う「リビング・ヘリテージ」において重要であります。ところが、「京都会館の建物価値継承に係る検討委員会」においては、岡崎地域活性化の核として京都会館に「世界一流のオペラ開催が可能な舞台機能の強化」を求めた「岡崎地域活性化ビジョン(2011年3月)」の策定以来、その新たな要求性能が京都会館の歴史的建造物として文化的価値を維持できる範囲内のものか否かについての検証はなされてきていません。また、建物の部分的な扱いに関する提言はあるものの、建物総体としての継承すべき価値をどこに定めるかという議論は全くなされず、「第一ホールは建て替える」ということが前提となって議論が進行しました。この結果として京都会館再整備基本設計においては、

①過半の躯体を除去することによって、当初建築材料の残存率が極めて低くなること。

②京都会館と共に形成されてきた東山の景観、とくにそのスカイラインが著しく変化すること。

③ル・コルビュジエ、前川國男などの近代建築家にとって重要となるL型配置の結節点空間の視線の抜けが、第一ホールのホワイエの縮小によって、限定的なものになること。

④日本古来の建築に由来する深い庇による水平性の強調や、ピロティや中庭による内外空間の一体化といった、前川國男が試みた近代建築と日本建築の融合というこの建物の特徴が、中庭側の軒下空間を内部化することによって失われること。

等によって、京都会館の歴史的建造物として文化的価値を喪失する基本設計となっています。

このように検討委員会が京都会館の建物価値継承に関して本質的な議論を避けたため、新たに求められる機能に対する検討も不十分となり、連鎖的に京都会館が京都会館であり続けるためのインテグリティ(完全性)を喪失する方向で議論が推移しました。今回発表された「京都会館再整備基本設計」には残念ながら継承されるべき建物価値は反映されておらず、新たな要求性能には応えたものの、結果として京都会館の歴史的価値を喪失する再整備基本設計となっています。

以上のことから、日本を代表する建築家である前川國男の設計によって1960年に建てられた戦後近代建築の傑作であり、近代建築と日本建築の融合を成し遂げたと近代建築史上に位置づけられ、京都の歴史的景観を構成する重要な建物である京都会館の歴史的、文化的価値を失わないためにも、2012年9月に予定されている「第一ホール解体」を中止し、「京都会館再整備基本設計」が京都会館の建物価値を継承するものになっているかを合理的方法に基づいて再検証する透明性のある委員会を設置し、計画及び基本設計の見直しを行うよう意見申し上げます。

敬具

*1 「マドリッド・ドキュメント」 とは、イコモス20世紀遺産国際専門委員会(2011年6月マドリッド)において採択された20世紀建造物の保存に関するガイドライン。このガイドラインにおいては、それまでの変化を全く容認しない文化財保存の考えを改め、「リビング・ヘリテージ(生きている文化遺産/使われる建物としての継承)」として、歴史的建造物資産の文化的価値を継承することを目的に、機能変化を含む改修などの変化も視野に入れながら、その資産のインテグリティ(完全性)を喪失させないことのガイドラインが示されている。下記のHPに全文が掲載されている。
Madrid Document: ICOMOS International Scientific Committee on Twentieth Century Heritage 
http://icomos-isc20c.org/sitebuildercontent/sitebuilderfiles/madriddocumentenglish.pdf

2011-06-16 マドリッド・ドキュメント2011(日本語訳):20世紀建築遺産の保存のための取組み手法-ISC20C
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■京都会館再整備基本設計に対する意見書-「DOCOMOMO Japan」
2011-06-16 マドリッド・ドキュメント2011(日本語訳):20世紀建築遺産の保存のための取組み手法-ISC20C
DOCOMOMO Japan HP
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by 2011-kyoto | 2012-08-08 00:00 | 2012/08
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