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2011-06-16 マドリッド・ドキュメント2011(日本語訳):20世紀建築遺産の保存のための取組み手法-ISC20C
20世紀建築遺産のための 介在的な手法の国際会議
2011年 6月14・15・16日 マドリッド

マドリッド文書(ドキュメント)2011:
20世紀建築遺産の保存のための取組み手法(アプローチ)

2011年6月 マドリッドにて


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序文

イコモス(ICOMOS)の20世紀遺産のための国際学術委員会(ISC20C)は、2011年から2012年にかけて、20世紀遺産の保存のためのガイドライン作成に着手している。

この議論の進展に寄与するものとして「20世紀建築遺産のための介在的な手法— CAH 20thC」を議題とした国際会議において、ここに掲げた文書『マドリッド文書(ドキュメント)2011: 20世紀建築遺産の保存のための取組み手法(アプローチ)』が2011年6月16日に採択された。
この文書(ドキュメント)の目的

20世紀の遺産を保存するという責務は、私たちが担う、それより以前の時代の遺産を保存してゆくことに対する責務とまったく同等なものになる。

この世紀(20世紀)の建築遺産は、今、真価に対する認知度の低さや保全不備などから、かってないほどの危機に晒されている。現状では、いくつかの遺産は既に失われ、さらに、より多くが失われようとしている。これらの遺産は、一つの「リビング・ヘリテージ、つまり生きた遺産」といえ、よって、まず、的確にそれらを理解、定義、解釈して、同じく上手に保存管理しながら未来の世代に継承してゆくことが、私たちにとって本質的に重要なこととなる。

『マドリッド文書(ドキュメント)2011』は、20世紀という建築にとって重要な時代の遺産を適切かつ敬意をもって対処することに、寄与・貢献するために作成されている。既存する遺産全般に関する保存文書 を踏まえて、この『マドリッド文書(ドキュメント)2011』では、加えて、建築遺産の保存にまつわる多くの特有な事項を識別している。それらは、特に様々な形態の建築遺産に適応されるものだが、一方では多くのコンセプトや考え方は、建築以外の20世紀遺産全般に等しく当てはまるものかもしれない。

『マドリッド文書(ドキュメント)2011』では、遺産の保存にまつわる様々なプロセス(手順)に関与する、すべてのものが対象となっている。

説明的な註釈は、随所、必要に応じて挿入され、「文末脚注」として記され、また、関連用語・術語集が文書の最後に「用語集」として記されている。
事前の知識、理解および意義

第1条:文化的な意義への識別と評価。
1.1:一般に容認されている評価基準の採用。


20世紀建築遺産の意義や重要性に対する識別と評価については、広く受け入れられている遺産評価基準を用いることが必要となる。この特別な20世紀の建築遺産(また、それにまつわるすべての構成要素を含むもの)とは、それぞれの時間、場所そして使用に関する物理的な記録なのである。よって、文化的な意義や重要性は、各遺産の実際の所在地、デザイン(例えば、色彩設計などを含む)、建設システムや技術機器、躯体構造、美的資質や使用形態などに検知される、具体的な有形の特徴や、加えて/もしくは、歴史的、社会的、科学的または精神的に関連したもの、あるいは創造的な天才といったことなどに所以する、実態はないが存在する無形の価値に依存しているのかもしれない。

1.2:インテリア、建具、また関連する家具や芸術作品などの意義や重要性を識別し、評価する。

20世紀建築遺産を理解するためには、その遺産にまつわるインテリア、建具、また、関連する家具や芸術作品などを含む、すべての構成要素を識別し、評価することが重要となる。

1.3:敷地の景観・背景や周囲のランドスケープなどを識別し、評価する。

遺産所在地の環境に所以する、コンテキストの意義や重要性を理解するには、関連する敷地の景観や背景 また周囲のランドスケープなどを識別し、評価する ことが必須となる。

都市部に所在する遺産については、各遺産のそれぞれの時代や所在地に関連する別の計画体系やコンセプトを識別して、各々の意義や重要性を認知する。

1.4:積極的な20世紀建築遺産の目録の作成。

体系的な調査や目録、さらに、学際的な統合チームによる徹底的なリサーチや研究、および遺産管理や計画を管轄する当局により確立された適切な保存維持への対策をもって、20世紀建築遺産を積極的に識別し、評価する必要がある。

1.5:文化的な意義を確立するために比較分析法を適用。

20世紀建築遺産の意義や重要性を評価するに際し、対象遺産を分析して、その相対的な意義や重要性を理解することを可能にするためには、他の比較遺産の例を選択して、それらを識別・評価することが必要。

第2条:適切な方法論に基づいた保存計画の適用。
2.1:いかなる介在的な手法をとる前に、重要性や意義を理解することでインテグリティ(完全性)を保全・維持。


当該遺産に対する如何なる変更や改変または介在に際しては、常に歴史の素地や枠組みについての十分なリサーチ、調査や考証、また、分析により導かれた道標に沿って作業を進める必要がある。20世紀建築遺産のインテグリティ(完全性)は、無配慮で敬意のない介在的行為により生じる、如何なる(悪)影響も受けるべきではない。よって、遺産の意義や重要性を作り出し、体現するためにも、同様に、その意義や重要性の構築に寄与している遺産の特徴、また工程や手法を、もらさず完璧に表現するためにも、遺産本体や敷地のみならず、その他のすべての必要となる構成要素について、注意深く慎重な評価査定が求められる。また、無闇な開発や、あるいは憶測・推量を含めた、放置や看過による悪影響を回避すべく務めなければならない。

20世紀建築遺産において、文化的な意義や重要性がどのように顕在化するかということと、また、様々な特徴や価値、そして構成要素がどのようにその意義や重要性に寄与しているかということとを理解することは、遺産の保存や維持に対して適切な意思決定を下し、さらに、遺産のオーセンティシティ(真実性)とインテグリティ(完全性)の保存のために必要不可欠なことだ。建物は、時と共に変化してゆくものであり、時には、後からの変更が文化的な意義や重要性を創出することも有りうる。従って、同一の遺産内においても、別個の保存への取組み方や手法が必要となるかもしれない。取り分け、まず必要に応じて本来担当した設計者本人や建設業者などの意見を求め参考にすることも大事だろう。

2.2:保存工事や作業に先立って、文化的な意義を評価し、それを尊重し保持する手段を提示する方法論の適用。

20世紀建築遺産の文化的な意義や重要性を評価するために適用される方法論は、一般に、文化的に適切とされる保存計画に則った取組み手法(アプローチ)に従うべきものだ。つまり、確認された文化的な意義や重要性を保存し、管理し、また解釈するための方策を展開する際に含まれるのは、包括的な歴史のリサーチや意義や重要性の分析作業を踏まえて作業を進めるということ。そこで重要となるのは、保存工事や作業の開始に先立ってまず上記の分析を完了させることにより、開発と変更の道標となるような特定の保存方策や手段の提示を担保すること。よって、保存計画を準備しなければならない。まず、地域文化遺産としての憲章をだし、その土地固有の保全宣言をするといった展開 もよいだろう。

2.3:変更度合いの許容範囲の設定と確立。

すべての保存活動においては、如何なる建築的な介在行為を行うよりも以前に、初めにどこまでが変更の許容範囲となるかを定めた、明確な方策や手法、またガイドラインが確立されていなければならない。よって、保存計画は、遺産の重要部分の識別、介在可能なエリアの特定、さらに敷地の最適な利用法、また取るべき保存手法などについて、定め、明示するものでなければならない。そこでは、20世紀に特有な建築の基本や原則、また用いられた建築技術について、十分に考慮されていなければならない。

2.4:学際的な専門知識の活用。

保存計画には、遺産の文化的な意義や重要性にまつわる、すべての特徴や価値を考慮すると、学際的に統合された取組み手法(アプローチ)が必要となる。現代の保存技術や材料科学の專門家たちは、非伝統的な新素材や建材、また工法が20世紀建築遺産には広範に用いられたがゆえに、互いに連携しながら、具体的で特別な研究と交流を行う必要があるだろう。

2.5:保守(メンテナンス)計画の提供。

当該となる建築遺産に対する、定期的な予防的処置や保守(メンテナンス)計画を立てることが重要となる。場合によっては、緊急的な安定化作業が必要となることもあるだろう。何れにしても、継続的かつ定期的に行われる適切な保守(メンテナンス)と点検作業は、一貫して、建築遺産の最適な保存活動であり、同時に、長期的な修繕コスト削減にも繋がっている。従って、「保守(メンテナンス)計画」は、このプロセス(手順)を手助けするものとなる。

2.6:保存活動のためのそれぞれの責任者の明確化。

20世紀建築遺産の保存活動においては、説明責任のある(複数の)当事者を識別し、明らかにすることが重要。その当事者のなかには、以下に限られたわけではないが、例えば遺産所有者、遺産(管理・管轄)当局、周辺のコミュニティ、地域の自治体、さらにそこに居住している者または占有者なども含まれているだろう。

2.7:記録データおよび調査・考証文書の保管(アーカイヴ)。

20世紀建築遺産に変更を加えるときは、その際に、変更箇所を記録した公的な保管(アーカイヴ)を作成してゆくことが大切となる。記録する手法や種類には、状況に合わせて、写真、実測図面、口述史(沿革)、レーザースキャン画像、3Dモデリング(塑像模型)やサンプリング(抽出見本試料)などの記録データの保管(アーカイヴ)が含まれるだろう。保管(アーカイヴ)作業をとおした研究は、保存計画の進行プロセスにおいて重要な位置を占めている。

すべての介在的な作業において、当該遺産の特殊性や実行された保存対処策について、保管(アーカイヴ)するために、もれなく適切に文書化することが必要となる。その際、文書化の作業では、介在以前の状態と介在過程の状態、そして介在後の状態をすべて記録しなければならない。文書化された記録は、常に、最新の複製可能なメディア(記録媒体)にデータを書き込み、安全な場所に保管・管理すること。保管(アーカイヴ)された記録データや調査・考証文書は、遺産の提示や解釈の仕方を援助し、またそれにより、使用者や訪問者の遺産への理解や楽しみをより一層増長させる。遺産の検証から得た情報、加えて、その他の調査結果・データや文書は、興味や関心のある者に開示され、閲覧を可能にしなければならない。

第3条:20世紀建築遺産の技術的な側面の研究。
3.1:20世紀の特有な建設資材や建設技術に適した、特定的な修繕方法に関するR&D/研究と開発。


20世紀の建設資材や建設技術は、しばしば、過去の伝統的な建材や工法と異なっていることが多い。よって、この特有な工法によるものの適切な修繕方法を、研究開発(R&D)する必要がある。20世紀建築遺産の、取り分け、20世紀中盤以降に建設されたものの、いくつかの側面に関しては、特定の保存の上での課題を提示するものだろう。その要因は、新建材や実験的な材料が使用され、また新しい工法が用いられたからだとも、もしくは、単純に、それらの(修繕)に関する専門的な経験が不足しているからだともいえよう。オリジナルもしくは重要な新建材やディテール(の部位)については、仮に撤去されたり取り除かれたりするのであれば、しっかりと記録されるべきであり、(摘出された)代表的なサンプルは、保存されるべきである。

如何なる介在的な作業が行われるよりも前に、これらの建材について、慎重に分析し、可視的および非可視的な破損箇所を識別し、またそれらを理解すべきである。加えて、実験的に使用された建材のかには、伝統的なものに比較して製品または素材としての寿命が短いものもあり、それらについて、入念に調査・分析をしなければならない。さらに、これらの建材の状態や劣化調査に際しては、適切な資格を有する専門家たちにより、非破壊的であり、かつ非侵襲的とされる方法を用いた検証を行うべきである。破壊を伴う調査に関しては、絶対的に最小限に留める。20世紀の建材の経年劣化に関しては、慎重で入念な調査が必要となるだろう。

3.2:柔軟な建築基準法を含む法規の適用および革新的な取り組みの手法(アプローチ)により、適切な遺産保存への解決策の確保。

建築遺産の文化的な意義や重要性の保存のためには、(例えばアクセスに関する制約要件、健康や安全に関する基準法、消防法、耐震や免震の改修、省エネ化対策なども含む)建築基準法を含む法規の適用に際して、柔軟な適応が必要となるだろう。関係当局との徹底的な分析調査や交渉においては、遺産に悪影響を与えない、もしくは、最小限に留めるようにするという目標が目指されるべきこととなる。勿論、それぞれのケースでは、その都度、個々の功罪により判断されるべきことだろう 。
文化的な意義の保存のために変更を管理

第4条:常にある一定の変更への圧力を認知し受け止め、管理する。
4.1:人間の介在的な行為による結果、もしくは環境状況に起因するものによる結果、どちらにしても変化を管理することは、遺産の文化的な意義、オーセンティシティ(真実性)またインテグリティ(完全性)を維持しつつ、保存する取組み方(プロセス)のなかで本質的で必要不可欠な要素。


オーセンティシティ(真実性)とインテグリティ(完全性)の保存は、特に都市圏の遺産で重要。何故なら、都市圏では、日常的な使用の変化により、必然的に、それに呼応する変更が余儀なくされることも多く、それにより、累積的な影響が文化的な意義に及ぶ可能性があるからだ。

第5条:注意深く敏感に変化を管理。
5.1:変更には、慎重な取組み手法(アプローチ)を採用。


必要となる変更の実施は、必要にして最小限に留める。如何なる介在的な作業も、慎重に注意深く行わなければならない。変更の規模とその度合いも、必要最低限に抑えるべきである。実績のある修繕方法を用いることにより、歴史的な建材、また、文化的な意義に対して損傷を与えないように努める。従って、修繕作業は、可能な限り最も侵襲的でない手段を用いて行うべきである。さらに、各々の変更も、それぞれ出来るだけ可逆性のある方法を採用すべきだ。

遺産の性能や機能の向上に繋がるような、離散的な個別の介在は、それにより文化的な意義に悪影響を与えないという条件下で可能となるものだろう。また、遺産の使用のされ方の変更を考慮する際にも、文化的な意義が削がれないように、最新の注意を払って適切な再利用の仕方を見つけるべきである。

5.2:提案された変更が遺産に対しどのような影響をもたらすか、作業の開始以前に、審査・評価を下し、悪影響を軽減させることを目指す。

遺産に介在し何らかの手を加えるのに先立って、文化的な意義について、審査・評価を下すべきであり、その際すべての関連した要素や部位を定義し、互いの関連性や設定性について理解しなければならない。取り分け、遺産の文化的な意義に与える影響については、徹底的な審査・評価を行う必要がある。すべての特徴や価値が、変更に対してもつ感受性については、解析し、さらに、その趣旨性を考慮すべきである。つまり、文化的な意義を保存するためには悪影響を回避し、もしくは緩和するように努めなければならない。

第6条:建て増しや付加による介在的な作業に際し、尊重されるべき取組み手法(アプローチ)の確保。
6.1:増築は、遺産の文化的な重要性や意義を尊重して行う必要がある。


いくつかの場合では、介在的な行為(つまり、例えば新棟の増築、あるいは何らかの部位の付加など)においては、遺産の持続可能性の確保が必要となるだろう。慎重に分析を行なった上で、新しい増築部や付加物に関しては、遺産自体のスケール、立地と配置、構成、プロポーション、構造、建材、性質(テクスチャー)、そして色彩などを尊重したデザインでなければならない。これらの増築部分あるいは付加部分は、よく精査すれば、新築または付加物だと明瞭に判別できるべきであり、しかしながら、同時に、既存部分と調和した関係性を保っていなければいけない。つまり、競合するのではなく互いに補完し合うということ。

6.2:新たな介在では、遺産が既にもっている特徴、スケール、形態(フォーム)、立地や配置、建材、色彩、風格、そしてディテール(詳細)を考慮してデザイン/設計する必要がある。

周囲の建物を注意深く分析し、またそのデザインを好意的に解釈することは、適切なデザイン上の解決策を導き出す手助けになるだろう。しかし、だからといって周辺コンテキストを意識してデザインすることが、模倣を意味している訳ではない。

第7条:遺産のオーセンティシティ(真実性)およびインテグリティ(完全性)を尊重。
7.1:介在は、文化的な意義を高め、持続させる必要がある。


重要で意義があると認識された建物の要素や部材は、再建して復元するのではなく、修繕あるいは修復する必要がある。つまり重要な要素や部材を取り替え、交換することよりも、それらを安定化させ、統合して保存するという手法が望ましい。従って、可能な限りそれぞれ個別に合致・調和する交換部材を選定して使用するべきである。但し、交換部材と判別できるように、印または日付を付記しておくことが必要となる。

完全に失われた遺産本体、もしくは重要な要素や部材を再建または再構築して復元することは、保存活動の範疇を逸しているので、推奨されるものではない。しかしながら、限定的な復元については、仮に、考証文書で裏付けされている場合、その遺産のインテグリティ(完全性)や理解を深化させることに貢献するかもしれない。

7.2:重要な変化が層として重ねられたものの価値と時を経た風格を尊重。

歴史的な証言としての遺産の文化的な意義は、主としてオリジナル本来の特徴や重要な属性のある建物や建材的な特徴、加えて/あるいは無形の価値のあるものとして、遺産のオーセンティシティ(真実性)を定義していることに基づいている。但し、本来の遺産、または後に介在された遺産の文化的な意義は、何れもその遺産の年齢だけに依存したり由来したりするものではない。よって変更が加えられた遺産が、後に独自の文化的な重要性や意義を獲得している場合は、そのことを認識し、また尊重して保存のための決定を下すことが必要となる。

遺産の年齢は、時を経て行われたすべての介在や変更をとおして、また、その遺産の醸し出す風格や雰囲気に反映されているに違いない。この考え方は、20世紀に使用された大多数の建築材料にとっても、重要となる原則である。

文化的な意義に寄与するコンテンツまた付帯設備、備品や家具などについては、常に、可能な限り遺産内に保持する必要がある 。
環境の持続可能性

第8条:環境の持続可能性への配慮
8.1:環境の持続可能性と文化的な意義との間の適切なバランスを達成するために配慮が必要。


建築遺産が、省エネ対策によりエネルギー効率を向上させた場所となるように促す圧力は、これから時の流れとともに増加してゆくだろう。しかし、省エネ対策により文化的な意義に対し悪影響を及ぼすような事態は、避けなければならない。

遺産の保存は、環境の持続可能性に繋がる最新の取組み手法(アプローチ)を考慮して行われる必要がある。遺産への介在は、持続可能な方法を用いて遂行し、その開発やマネージメント(管理)を支援する 必要がある。実践的でバランスのとれた解決策の実現には、遺産の持続可能性を保証するため、利害関係者全員と協議する必要がある。遺産への介在、遺産の管理と解釈、より広範囲からの視点や見地、および文化的な意義などのような、あらゆる可能な観点や選択肢について、未来の世代のためにも留意し、保持しておく必要がある。
解釈と伝達(コミュニケーション)

第9条:広範囲のコミュニティに向けて20世紀建築遺産の振興と賞賛
9.1:プレゼンテーション(紹介や提示)と解釈は、保存の取組み手法(プロセス)の不可欠な部分。


20世紀建築遺産についての研究や保存計画を出版し流通配布し、立上げた関連イベントやプロジェクトをできる限り関連のある専門家、さらに、広く一般のコミュニティに向けて紹介してゆく。

9.2:文化的な意義をより広範囲に向けて紹介、伝達。

主要な賛同者や利害関係者たちに関与することにより、20世紀建築遺産の保存への評価また理解を支援するための対話を進める。

9.3:専門的教育プログラムに20世紀建築遺産の保存を組み込んでもらうように奨励し援助する。

教育的また専門的な養成プログラムに、20世紀建築遺産の保存の基本を含める必要がある 。





GLOSSARY (用語集)

Attributes: 特徴または属性
実際の所在地、デザイン(例えば、色彩設計などを含む)、建設システムや技術機器、躯体構造、美的資質や使用形態などを含むものの特徴または属性。

Authenticity: オーセンティシティ(真実性)
それは、遺産の品質が、使用された建築材料の具体的に有形な特徴や属性をとおして、また実態はないが存在する無形の価値双方をとおして、ある意味在るがまま真実で信頼性に富んだ様相で表現している遺産の文化的な意義。よって、オーセンティシティ(真実性)は、その遺産がどの様な種類の文化的遺産、また文化的背景に属しているのかということによって相違する。

Components: 構成要素
遺産の構成要素には、その遺産にまつわるインテリア、建具、また、関連する家具や芸術作品など、また敷地の景観や背景、周囲のランドスケープなどが含まれている。

Conservation: 保存
保存とは、遺産の文化的な意義を保持する目的で行われる、遺産の世話をするすべての取組み(プロセス)を指すもの。

Cultural significance: 文化的な意義
文化的な意義とは、過去、現在そして未来の世代のための美的、歴史的、科学的、社会的、加えて/あるいは、精神的な価値を意味している。文化的な意義は、遺跡自体また関連する敷地の景観や背景、躯体構造、使用形態、連携するもの、趣意、記録、関連する場所や物体などに盛り込まれ具体的に表現される。
遺跡は、個人個人や様々なグループにとって、幅広い範囲の意義を持っている。

Intangible values: 無形の価値
実態はないが存在する無形の価値には、歴史的、社会的、科学的または精神的に関連したもの、あるいは創造的な天才といったことなどが含まれる。

Integrity: インテグリティ(完全性)
インテグリティ(完全性)とは、建設された遺産やその特徴や価値の全体としての完全性や一体性を測る基準である。従って、インテグリティ(完全性)の状態を検証するには、次のような範囲の対象となる事項を評価する必要がある:
a) 価値を表現するのに必要なすべての構成要素が含まれていること;
b) 当該遺産の意義や重要性を伝える、機能や取組み手法(プロセス)を網羅する完全なプレゼンテーションを確実に行うこと;
c) 開発、また/あるいは放置や看過からの悪影響により、実際に損害を受けている。

Intervention: 介在または介入
変更または改築や増築を含む、何らかの手を加える行為による改造を意味する。
日本語では、物理的なものに関しては介在とし、概念的なものやシステムに関わるものに関しては介入とする。

Maintenance: 保守(メンテナンス)
保守(メンテナンス)は、遺産の躯体構造や敷地の景観に対する継続的な保護処置の作業を指し、修善作業とは区別されるべきだ。

Reversibility: 可逆性
可逆性とは、遺産の基本的に歴史的な躯体構造に対しての変更や改造をしないでも、介在した部分を本質的に元に戻すことができるという意味。大概の場合、可逆性は、絶対的なものではない。


■マドリッド・ドキュメント2011:20世紀建築遺産の保存のための取組み手法(アプローチ) -イコモス(ICOMOS)20世紀遺産のための国際学術委員会(ISC20C)

■マドリッド・ドキュメント2011 原文
Madrid Document: ICOMOS International Scientific Committee on Twentieth Century Heritage 
http://icomos-isc20c.org/sitebuildercontent/sitebuilderfiles/madriddocumentenglish.pdf

イコモス(ICOMOS)
日本イコモス国内委員会
20世紀遺産のための国際学術委員会(ISC20C)

2012-08-08 京都会館再整備基本設計に対する意見書-「DOCOMOMO Japan」 
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