2012-09-03 ついに解体目前になってしまった@京都会館-「Kazuya Morita Architecture Studio」
ついに解体目前になってしまった@京都会館

2012年 9月 3日

先日8月26日(土)、南禅寺近くの京都国際交流会館で、シンポジウム「京都会館のより良き明日を考える―解体工事を目前に問題点を総括する」が開かれました。僕も帰国後の荷物で事務所がごった返す中、聴講に出かけてきました。

この計画は最初に新聞に記事が掲載された時から、ずっと大きな問題を感じていた計画で、京都新聞に記事を執筆する機会も頂き、昨年九月からのスペイン滞在中もその後の推移をずっと注目してきました。その後、色々な反対運動が繰り広げられたにもかかわらず、今年九月の解体を目前に迎えることになってしまいました。

こうした京都市の景観/建築/音楽など広い分野にまたがる重要な問題、そして様々な関係者の利害が絡む複雑な問題は、京都市の未来を決める問題でもあるので、じっくりといろんな立場の人の意見を調整しながら、あせらず着実に進めて行くべきでしょう。でも、悲しいことに、私たちが選んだ京都市の市長、議会の人たちは、反対意見に耳を貸すことなく、計画をどんどん進めてしまいました。

また、市や議会がまともに取り組まないのであれば、新聞やテレビなど一般の人が広く目にするメディアが、公正な立場から情報を整理して問題を伝えるべきだと思うのですが、残念なことに彼らは市の発表をそのまま伝えるか、断片的な反対運動を取り上げるのみで、本来果たすべき役割を放棄しているので、問題の全体像はほとんどの人には見えないままです。

京都会館の建築作品としての価値もとても大切ではありますが、まず悲しく思うのは、市民が使う公共の空間が、民主的な手続きを経ることもなく、ごく限られた人間の都合によって、巨大な費用を伴う計画によって大きく変えられてしまう、ということ、そしてそれを止められない、ということです。

個人設計事務所のブログで詳細に取り上げるような問題ではないのは百も承知なのですが、数十年後には京都の文化行政の汚点の一つとして刻まれるのが確実なこの事件について、京都に住む一建築家として居ても立ってもいられず、後世に残すべくここでその経緯を整理してみます。

*京都会館問題について年表形式の経緯説明が掲載されています(リンクからご覧ください)

この経緯を見て頂くと、すでに京都市は計画の一部が突如として新聞発表された2010年12月24日の時点で、かなり具体的な計画を持っていたにもかかわらず、計画を堂々と発表して市民の合意を得ることもせず、建築の専門家による検討も排除して計画を検討し、後戻りのできない段階で形式的な手続きだけ踏んだ格好にすることで、密室で決まった計画を強引に進めてきたことが分かると思います。

そこまでして京都市が強引に京都会館の計画を進めるのは何故か?

まずはこの問題の背後に、2002年に制定された「都市再生特別措置法」があることを知っておく必要があります。「都市再生特別措置法」は民間資本の導入による大都市の拠点的な再開発事業を促進するもので、その結果、都市開発に関して大幅な規制緩和が可能になりましたが、単純に言うなら、それはつまり開発する側にとっては開発の自由度が格段にアップしたということで、その反面、開発される土地の側とすれば今までの生活を守っていた規制が崩壊したという非常に危険な法律でもあるわけです。

この法律による規制緩和により、日本各地で再開発事業が加速して、相次いで日本の貴重な近代建築が解体されてきました。京都市も2011年7月に同様の再開発事業として「岡崎地域活性化ビジョン」を策定し、この地域を活性化する計画を進めています。要するに、いままで京都の文化地域として守られてきた岡崎地区は、今後は民間資本による利益優先のビジネス地区へと変貌するということであり、具体的には建物が高層化し、商業施設が誘致され、河原町通のような地域に近づいてしまうわけです。

ロームの資金を導入しての京都会館の再整備もそのプロジェクトの一端を担っています。京都市は整備後の京都会館の運営方針の詳細を何も発表していませんが、100億円という予算を投入する以上、今までのように安価で気楽に市民が使えるようなホールでなくなることは確かです。また、京都会館は「全解体」は免れていますが、ユネスコの諮問機関から「遺産危機警告」が通達されるほど、原形を損なうような計画が進められています。

シンポジウムでは、音楽評論家の日下部吉彦氏が、日本各地の音楽ホールに共通する問題として、「利用者無視」を挙げ、「どんな規模の、どんな目的のためのホールが必要か」という議論もなく、「隣の町よりも大きなホールを」という視点で不要なホールが計画・建設されてきた、と指摘。そのほとんどのホールは現在では充分に生かされることなく、「カラオケ大会に使われている」と痛烈に批判されていました。京都会館も大金を費やして改修するにもかかわらず、海外の一流オペラを招くには不十分な程度のものにしかならないのです。

また、8月13日に提訴された解体差し止めの住民訴訟を担当されている弁護士の玉村匡氏は、京都市が計画に都合が良いように法律を変えてしまっている現計画を提訴する難しさについて、「相手にルールを決められて戦うスポーツのよう」だと表現されていました。
私事で恐縮ですが、私はつい2週間前まで文化庁の海外芸術家研修制度でスペイン・バルセロナに滞在していました。バルセロナに限らずヨーロッパでは、音楽を聴いたりスポーツをしたり本を読んだり絵を鑑賞したり、文化的な生活を送ることが国民の基本的な権利としてとても大切にされています。古い建物も、有名なガウディの建物だけでなく、できる限り古い部分を残して再生するように大切に扱われています。

それと比べると、今回の京都会館をめぐる問題は、市民の基本的な人権を踏みにじり、文化的遺産を台無しにする、本当に文化的程度の低い、目先のお金目当ての計画です。それが、「京都文化芸術都市創生条例」を制定し、「世界文化自由都市」を宣言している京都市で起こっているのです。いちおう民主主義の社会であるこの日本で、どうしてこのような計画を止めることができないのか。

おそらくこの計画を推進している人のほとんどは、この計画が京都の未来のためになると真剣に思って、取り組んでいるのだと思います。ただ、本当にこの計画が正しいのか?と立ち止まって考えたり、他人の意見を聴こうという民主主義にとって基本的な姿勢が、今の京都市の政治には決定的に欠けているのだと思います。今年二月の京都市市長選で、我々は別の政治を選ぶことも可能だったはずなのに、何も変えようとしなかった。つまりこれは、こんな程度の政治しか持つことのできない、我々自身の問題でもあるのです。

最後に、8/26のシンポジウムの会場では、ある中学校吹奏楽部コーチからの手紙が紹介されました。京都会館の空間のかけがえのなさについて、音楽を愛する人の立場からかかれた名文です。ぜひ読んでみてください。

■ついに解体目前になってしまった@京都会館-「Kazuya Morita Architecture Studio」
森田一弥建築設計事務所
森田一弥-information
2011-07-29 京都会館改修、広く議論を 建築家 森田一弥 -「京都新聞」
2011-08-01 建築家森田一弥氏の京都会館問題新聞記事(京都新聞)とその反応のまとめ-「Togetter」

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2010-12-24 京都に最大級のオペラ劇場-「日本経済新聞」
2011-05-02 「岡崎地域活性化ビジョン」ができました!-「京都市情報館」
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2011-05-04 ニュースUP:京都会館「オペラ上演」改修計画=京都支局・野宮珠里-「毎日新聞」
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by 2011-kyoto | 2012-09-03 00:00 | 2012/09
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