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2012-10-03 叡智を見つめて-世界遺産40周年 前ユネスコ事務局長 松浦晃一郎さん-「京都新聞」
叡智を見つめて 世界遺産40周年
前ユネスコ事務局長 松浦晃一郎さん
第5部① 日本に16件、誇っていい

 世界遺産はユネスコの条約で一番人気があり、189カ国が参加している。出発点は1960年代。ダム建設によるエジプトの神殿の埋没危機で、国際的な運動で次世代に残そうと始まった。条約がなければ、ほかにも地上から消えた遺産が相当あっただろう。
 条約を発効したころは登録基準の適用に甘い部分もあり、毎年30~40を超える新規登録があった。「世界遺産を持ちたい」という国や地方の要求に応えようと無理をするケースも目立ち、保存状態の悪い遺産もあった。
 近年は世界遺産委員会で、諮問機関の国際記念物遺跡会議(イコモス)などの見解をひっくり返すケースが増えている。今年は、登録された26件のうち、13件が勧告を覆した。私が議長を務めた98年の委員会は30件中、2件だけだった。
 政治的な配慮が必要なケースはある。例えば、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)に反対する政治犯が投獄されていた収容所のある島だ。イコモスは評価しなかったが、「反アパルトヘイトの象徴」として意味があり、イコモスでは評価しきれないと判断して、登録した。
 こうした政治的な遺産は別として、現状はイコモスから否定的な評価を受けた国同士が「互いに支持しよう」と取引し、委員会で覆している。
 登録後の保全も課題だ。英国のロンドン塔は登録後に周囲に高層ビルが建ち、景観が損なわれた。ドイツのドレスデン・エルベ渓谷は、生活の便のために住民投票で橋の建設を決め、景観破壊として登録が取り消された。建設賛成の住民には取り消しのリスクが十分伝わっておらず「それなら賛成しなかった」との声もあるそうだ。
 ユネスコ事務局長に在任中、銀閣寺(京都市左京区)のそばで高層マンション建設の計画が持ち上がった。景観が台無しになるため、日本政府から市に掛け合ってもらった。世界遺産でなければ、寺から高層建築が見えていたかもしれない。
 その点、フランスのパリは景観規制が厳しい。景観の保全には政府や自治体の努力が欠かせず、現在は他の国の政府も監視制度を導入している。 日本の条約批准は92年と遅かったが、文化、自然遺産が計16あることは誇っていい。特に文化遺産をよく保存し、技術もある。ユネスコに認めさせた「木の文化」に関しては、ほかの国に専門家の派遣や資金的な支援がもっとできるし、アジア、アフリカ諸国からも期待されている。
 条約採択40周年記念の最終会合が、11月に京都市で開催される。世界から専門家が集い、「持続可能な社会」の中で世界遺産を考える。遺産を守るための地域社会の役割も関われるので、ぜひ京都の人も注目してほしい。
(聞き手・江藤均)
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■叡智を見つめて-世界遺産40周年 前ユネスコ事務局長 松浦晃一郎さん-「京都新聞」

松浦晃一郎-Wikipedia

世界遺産条約採択40周年記念最終会合(京都会合)2012年11月6日~8日 -「外務省」
2011-09-20 世界遺産条約採択40周年記念シンポジウムの開催について-「京都市情報館」
2012-09-20 日本イコモス国内委員会公開専門家会議及びシンポジウムのご案内-「京都市情報館」
世界遺産条約採択40周年記念事業京都実行委員会

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