2012-10-29 ヨーロッパからの手紙その6-「京都と京都会館、文化の喪失と文化遺産」
ヨーロッパからの手紙その6-「京都と京都会館、文化の喪失と文化遺産」

北の寒気が中欧に勢力を伸ばし、初雪でほんのりと白ばんだウィーンです。

京都会館の解体工事が始まったのを写真で確認、同時にそれを食い止めるためのイニシアティブが進行しているようにお見受けします。
予期できたとはいえ市当局は、有志の人たちの問いに対して『京都会館再整備の基本設計につきましては、…専門家により構成された建物価値継承に係 る検討委員会を設置して慎重な検討の上とりまとめたものでございます。(2012-10-23 文化市民局への質問状と回答)』と言ってのけました。
馬鹿にした話ですが、すべてが市当局のシナリオどおりに展開していますね。

市民運動を「一部の好事家の騒音」と高飛車に出ても当局が問題視されない今日の日本的状況にあって、手段として残されているのは上位の「お上」に 訴えること、それは戦略として順当だと思われます。
しかし訴える側にポテンシャルが備わっていなければ、受ける側も困惑するしかありません。「お上」を土俵に上がらせるためには、十分な下稽古に基づき規範に則した論拠を示す必要があるからです。
ものに価値を認めて保存しようとする文化、それは一朝一夕で社会に根付くものではありません。

貴ブログに最近よく登場する「イコモス(ICOMOS - 国際記念物遺跡会議 = International Council on Monuments and Sites)」、その本部のホームページ で 『HERITAGE AT RISK』という冊子をダウンロードできますが、その69ページ にドイツ・ボン市の「ベートーベン・ホール(1959年竣工)」が事例として掲載されてい ました。
その報告は以下の記述で終えられています:" ... the mayor of Bonn and the three companies declared on 21 April 2010 they would no longer pursue the plan for a new festival hall ? at least for the time being."
(…ボンの市長と三社*は、フェスティバル・ホール新築計画を推進しないことをー 少なくとも当面のところ ー 2010年4月21日付けで発表した。)
「当面のところ」というのが言い得て妙なりで、月日の経った今日事態は進行し、旧国会の建物をコンベンション・センターに改築する案がいま浮上しています。
建築の価値認識に「一日(?)の長」があるヨーロッパのドイツにおいても、保存は市民が声を上げて勝ち取られるべきものだということ、大切なヒン トではないでしょうか。

事の起こりからすると京都会館を巡る本件に似ているといえますが、まったく異なった展開が可能となります。
というのは、ドイツには文化財保護を専門的に管轄する国の機関があり、市民の申し入れが妥当であれば法的拘束力を伴った「待った」が期待できるか らです。
もうひとつ彼の地が違うのは「専門部門に所属する者たちが形成する社会(Fachoffentlichkeit)」が成熟していることです。京都会館に関して、当局に対する抗議が時宜相応になされなかったこと、基本計画案選定の時点でブレーキがかからなかったこと などは、逆に日本の建築界の社会としての未熟さを示す事実です。市民に味方しないマスコミも問題ですが、これは日本社会全体の問題ですからご各位にお預けということで。

こういう状況のもと、名誉団体的なNGOの一部門たる「日本イコモス国内委員会」の専門職ではない方々に具体的なことを期待するのは、少々酷だと思われます。
でも、もし骨を折っていただけるとするならば、それは「お上」に「ご注進」していただくことでしょう。
この11月、京都国際会館で『世界遺産条約採択40周年』にまつわる式典が予定されています。その「お上 = ユネスコ」の祝辞や褒章の言葉のなかで、寺社仏閣のみならず近代の業績も文化遺産であることを軽く諭していただきたい。それを無視し続けると京都の失格につながるとの暗示をも含めて。そうすれば市当局も、少しは堪えるかもしれません。
もうひとつ、皆様に出来ることがあります。
市当局は各国の委員を自慢の文化遺産に案内するのでしょうから、それに習って独自のツアーを組み、彼らを京都会館の現場に案内してその景観的な質を体感してもらい、ネイティブ・フードなどを味わいながら危機を訴える、どうでしょうか。

客観的に今の力関係からすると、京都会館の先行きに大きな変換があるとは思えません。
しかし、本当に近代建築に価値を見出すのなら、今までのようにふてくされてさじを投げることは許されないでしょう。
世界は今日、収益性を考慮してある種独特の風貌を与えられた建築に沸きかえり、至るところで薄っぺらなアーバニティーがでっち上げられています。 「上海」や「ドバイ」はいうまでもなく、「ソチ」とか「バク」とかいった黒海の辺境的集落に至るまで。東京なんかとは比較になりません。
そしてその正反対のところに、真摯な思考に裏付けられた戦後の良質な近代建築が位置します。
時を経た建築物が傷んだり古びた印象を与えるとしても、それは自然の成り行きで収まります。もうひとつ、建築物は設計者の思考と判断が集積したものですが、単なる制度的規制や打算の直接的翻訳ではなく、独自の良心と社会的規範に照らし合わせたた思考と判断とが込められた建物も存在します。それが優れたデザインに昇華されて、建築と称するに足るものが出現するのだと思いますが、そういった精神がエーテルのように建築の空間に漂っていること、ご体験ではないでしょうか。
そしてこれは、風化するものではありません。
この意味において、良質な近代建築は私たちの歴史と今在ることの証であり、自らを質して正すための貴重な先達なのであり、それを取り壊すということは、 アジアの中で日本のみが保有する戦後期の文化的アイデンティティー(『三丁目の夕日』!)を自ら放棄するにも似た暴挙にほかなりません。

先に述べたことを踏まえれば、まず大切なのが下稽古を積むこと。
稽古をつけてもらう相手は、長年鍛えられたドイツの「ボン」の市民たちとの交流を図るのが適策だろうと思われます。
同じような課題に長年取り組んでいるうえに状況がまだライブに流動的で、次々と直面するであろう新しい状況にどう対応するのか、非常に勉強になるだろうからです。
お望みとあらば、お手伝いできると思います。

ますますのご健闘をお祈りします。
2012年10月末 ウィーンにて
建築家 三谷 克人
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■ヨーロッパからの手紙その6-「京都と京都会館、文化の喪失と文化遺産」

2012-10-23 文化市民局への質問状と回答-「京都会館を大切にする会」「京都市」
世界遺産条約採択40周年記念最終会合(京都会合)2012年11月6日~8日 -「外務省」
世界遺産条約採択40周年記念事業京都実行委員会

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2012-05-29 ヨーロッパからの手紙その4-「京都会館、そして岡崎地区」
2012-04-30 ヨーロッパからの手紙 その3 「みなさんへ」
2012-03-20 ヨーロッパからの手紙 その2-「第4回価値継承委員会会議傍聴メモについて」
2012-02-27 ヨーロッパからの手紙-「I love Kyoto-Kaikan」読みました
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by 2011-kyoto | 2012-11-03 11:50 | 2012/10
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