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2014-02-16 隠れた名所は町役場 モダン建築のさきがけ-「東京新聞」
隠れた名所は町役場 モダン建築のさきがけ

2014年2月16日

房総半島の山あいに、モダン建築の隠れた名所がある。早稲田大の名誉教授だった今井兼次さん(一八九五~一九八七年)が五十五年前、「亡き友」のため設計した大多喜町役場の庁舎だ。老朽化による解体の危機も乗り越え、早大で建築を学ぶ学生が今でも毎年、見学に訪れている。(内田淳二)

 庭木の緑に、コンクリート打ちっ放しの庁舎が映える。地上一階、地下一階。華美な装飾を排した造りだ。しかし、車を止めやすくするため、車寄せを支える梁(はり)を蛇行した形にするなど、意匠を凝らしてある。

 「日本の近代建築のさきがけ。建築学会作品賞も受賞しています」。町職員がそう誇らしげに話す庁舎が、人口一万人の小さな町に誕生したのは偶然が結んだ縁だった。

 今井さんは「大学に籍を持つ身」として設計を引き受けるのはまれだった。しかし、町村合併を機に持ち上がった庁舎建設の関係者の一人が教え子。さらに、その義兄は早世した大学時代の同級生だった。

 「もし同君が存命だったなら新庁舎の設計に選ばれる才能の人だった。亡き友の分身と思って力添えしたい」。役場に残る古い資料には、今井さんが親友のため決意した経緯が記されている。

 それから半世紀。庁舎に解体計画が持ち上がった。鉄筋が露出するなど老朽化が目立つようになったためだ。しかし、建築界や地元住民から保存を求める声が上がり、町は二〇一二年、改修を実施。隣接地に新庁舎を増築して対応した。

 保存を喜ぶのは地元だけではない。「今の学生たちは今井先生の『ひ孫』に当たる。今後も生きた教材に触れることができる」。早大建築科の古谷誠章(のぶあき)教授(58)はそう意義を語る。早大では四十年以上前から、庁舎の図面の模写を一年生の必修課題としてきた。「愛情に満ちた設計で、建築は使う人の立場で心を込めて生み出すものという精神が学べますから」

 庁舎は昨夏、優れた保存事業に贈られる「ユネスコ・アジア太平洋遺産賞」の功績賞も受賞した。東京大の千葉学教授が手掛けた新庁舎も、広い吹き抜けが印象的な名建築。旧庁舎と併せ、早大関係者だけでなく、建築界や愛好家から注目を浴びている。

■隠れた名所は町役場 モダン建築のさきがけ-「東京新聞」
by 2011-kyoto | 2014-02-21 23:30 | 2014/02
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