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2014-04-25 京都会館建築確認処分取消審査請求書「反論書」-1
京都会館建築確認処分取消審査請求書「反論書」-1

平成25年度第1号審査請求事件
平成26年4月25日
京都市建築審査会 御中

反 論 書

請求人ら代理人
弁護士 中島 晃
   同 飯田 昭
   同 藤井 豊

第1 憲法14条違反

1 新景観政策の理念と目的

平成19年9月から施行された京都市の新景観政策は、歴史都市としての京都の良好な景観の保全と創造に向けて、京都市の市街地のほぼ全域で高さ制限を強化するものであり、具体的には、31~10メートルの6段階の高度地区を地域の特性に応じて設定し、中心部から三山の山すそなど周辺部へ行くにしたがって、建物の高さの上限をおさえるものとなっている。

本件地域の高さ制限についても、東山の山すその近くに位置することから、東山の眺望景観の保全等をはかるため、建物の高さの上限を15メートルとしたものである。

こうした高さ制限の強化を中心的な内容とする新景観政策の採用にあたっては、市民の間で、その賛否をめぐってさまざまな議論がなされ、市民的な論議を経たうえで決定されたことは記憶に新しいところであり、それは個々人の利害を超えて、50年後、100年後の将来を見すえたうえで、歴史都市にふさわしい京都の景観を生み出そうとするものであった。

それは、歴史都市としての京都の景観が「公共財産」であるという考え方にもとづくものにほかならない(甲39。平成19年3月7日京都新聞に掲載された高田光雄京都大学大学院工学研究科教授の発言参照)。


2、新景観政策導入の重要な契機となった京都市建築審査会の付言

 京都市が新景観政策の導入に向けて動き出すうえで、重要な契機となったのは、平成12年4月に、京都市建築審査会が審査請求に対する裁決のなかで、異例の「付言」をつけたことである。

  この審査請求の事案は、京都の都心部、中京区釜座町で、住民が自主的に高さ規制を強化して、建物の高さを6階までとする建築協定が締結されていたが、この地域に隣接した地上11階建て、個数24戸の巨大マンションが計画されたことから、周辺住民が町並み景観が破壊されることなどを理由に、建築確認の取消しを求めたものである。

 建築審査会は、裁決で住民の請求をしりぞけたものの、「付言」をつけて、そのなかで、住民が建築協定を締結して、景観・環境を守っている地域に隣接して、都市景観や町並み保全のための住民の努力を無意味にするような規模と形態のマンションが建築されることをきびしく批判し、これに対して行政が的確な対応、対策を打ち出すべき時期にきていると注文をつけた。

 建築審査会が市民の良好な景観の保全・形成に向けた努力を積極的に評価し、上述した「付言」をつけたことが新景観政策の導入につながったという経過は、本件においても銘記されてしかるべきである。


2 地区計画による高さ規制の緩和には一定のルールを要すべきこと

勿論、上述した新景観政策の採用にあたっては、同時に高さ制限を例外的に緩和するための手法として、個別の建築物の特例許可制度と一定の地域で独自のルールをつくる地区制度もあわせて定められていることはいうまでもない。

しかし、こうした高さ制限の例外的な緩和が、無原則的なしくずし的に認められるとすると、新景観政策にもとづく高さ制限の強化が事実上骨抜きになるおそれがあることは明らかである。

こうしたことから、新景観政策のもとで、地区計画による高さ制限の緩和が認められるとしても、きわめて例外的な場合に限定されるべきであって、たやすく認められるものとは考えられてこなかったのである。
現に、新景観政策施行後本件に至るまで、地区計画による高さ制限を緩和した事例が一件もなかったことは、このことを何よりも雄弁に物語るものである。

また、このように地区計画による高さ制限を緩和した事例がこれまで全くなかったことと相まって、京都市においても、地区計画による高さ制限の緩和がいかなる場合に認められるかについて、ガイドライン等を策定するなど、地区計画による高さ制限の例外的な緩和を誘導する措置を何ら講じてこなかった。


3 地区計画による高さ規制緩和が市民に利用されることもなかったこと

以上のような経過のもとで、一般の市民にとって、自己の所有する建物がある地域で地区計画を用いて高さ制限の緩和を図ることは、京都市において上述した例外的な緩和のためのガイドライン等も定められておらず、これを誘導するための措置も何ら講じられていないこと、また地区計画の策定には、地権者のほぼ全員の合意が必要であり、そのハードルは高いこと(上記高田光雄教授の発言)などからいって、その実現は非常に困難であって、事実上不可能に近いと考えられてきた。

   こうした状況のもとで、京都市は自ら都市計画決定をなしうる権限を有していることから、その有する都市計画権限を利用して、地区計画による高さ制限の緩和を図ることは、一般の市民に対しては高さ制限による不利益や犠牲を強いる一方で、行政だけが例外的な緩和による恩恵や特典を享受するものであって、著しく不公平、不平等とのそしりをまぬがれないものがある。

この点に関して、京都市の都市計画審議会の委員の一人である小伊藤亜希子大阪市立大学准教授(住居学)が「規制で不利益を被る人も多いはず。その中で市民合意を得て進めている政策を、市が安易に破るべきではない。これがきっかけでルールが崩れないか心配だ」と述べているのは当然のことといえよう(甲38。平成24年8月15日京都新聞「特例の公平・公正、議論を」と題する論説参照)。


4 本件地区計画による高さ規制緩和がルール無きままに進められたこと

ところが、京都市は地区計画による高さ制限緩和のガイドラインを策定せず、またこうした例外的な緩和を誘導するための措置を全く講じていないという状況のもとで、突然として、京都会館第1ホールという自己が有する施設の建て替えにあたって、高さ制限の例外的な緩和をはかるために、その有する都市計画決定権限を利用して、本件地域での地区計画による高さ制限の緩和に踏み切ったのである。

これは、一般の市民には高さ制限による不利益や犠牲をおしつけながら、京都市が自らの地位と権限を利用して、お手盛りで自分だけは特別扱いによる恩恵と便宜を享受しとうというものであって、一般の市民よりも、行政の都合を優先したものとのそしりをまぬがれず、明らかに不公平、不平等であるといわなければならない。

以上から、京都市は、一般の市民と比較して、地区計画決定に関して、はるかに有利な地位にあることを利用して、京都会館の建て替えという行政の都合と便宜をはかるために、高さ制限の緩和を図ったものと見る以外にはないといわなければならない。

さきに引用した京都新聞の論説が、これを「ご都合主義」と批判していることはまことにもっともなことというべきである。


5 結論

以上のとおりであるから、京都市が自ら有する地位と権限を利用して、京都会館という自己の有する施設の建て替えに関して、地区計画による高さ制限の緩和という特別の恩恵ないし便益を享受したものであることは明らかであり、これは上述した不利益や犠牲を甘受している一般の市民と比較して、著しく不公平、不平等な取り扱いであるといわなければならない。

したがって、この点に関して、いずれも京都市内において地権者たる地位を有する京都市と他の地権者との関係において、憲法14条に定める平等原則違反があることは明らかである。

反論書2につづく

■京都会館建築確認処分取消審査請求書「反論書」-1

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2014-05-09 京都会館審査請求裁決書-京都市建築審査会

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