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2011-03-27 きょうの京:京都会館の改修問題 野宮珠里-「毎日新聞」
きょうの京 京都会館の改修問題 
京都市が約90億円を投じて京都会館(左京区)を「世界水準のオペラ上演」も可能な施設に改修する計画に対し、日本建築学会本部が28日、建物の保存を求める要望書を提出する。改修計画に対する建築界からの要望書提出は延べ5回に上り、強い危機感がうかがえる一方、建築物としての価値はあまり知られていない。京都会館とは、どんな建物で、どう評価されているのだろうか。【野宮珠里】

 設計者は日本の近代建築のパイオニア、前川國男(1905~86)。20世紀を代表する仏の建築家ル・コルビュジェと、帝国ホテルを設計した米の建築家フランク・ロイド・ライトの弟子で日本で活躍したアントニン・レーモンドの下で学んだ。合理性・工業化を追求する西洋の近代建築の思想を、日本にどう根付かせるかが前川の生涯のテーマ。関東大震災と東京大空襲で廃虚と化した都市を目の当たりにした体験から、「建築家が都市やそこに暮らす人々に対して何ができるか」を問い続けた。

 大小二つのホールなどを備える京都会館は鉄筋コンクリート3階建て(地下1階)。水平に延びたひさしや寺のような大屋根が特徴的だ。設計に当たっての思いを、前川は次のように記している。「近代化も必要である事は当然である。然しそれがかつての京都をつくり上げた人達の充実した生命力のよろこびといったような貴重な伝統を傷つける様なものであってはならない」

 試行錯誤の末、京都会館は伝統と近代が融合した建築として結実する。京都工芸繊維大の松隈洋教授(近代建築史、建築設計論)は「街の景観を傷付けず、しかもコンクリートの建物として年月に耐え、成熟していくものをどうしたら作れるか、人々のよりどころとなる建築はどうあるべきか、真剣に向き合った建築だ」と語る。
 60年度に日本建築学会賞(作品賞)を受賞。「禅寺のもつ素朴ではあるが力強い荘厳にも似通うものをいみじくも現出している」と評価され、日本の近代建築の代表例の一つと位置づけられている。これに対し、市は「建物の『肝』は残す」としながらも、昨年12月、30メートル超の「フライタワー」建設など、建物や岡崎の景観を大きく変える計画を検討している事を明らかにし、建築界を驚かせた。

 コンクリートの建築物の価値を疑問視する声もあるが、近代という時代精神を伝える京都会館の今後は、行政も市民も真剣に考えるべきではないか。まずは京都会館が今後担う役割について、開かれた議論が必要だ。

 ◇「価値を踏まえ計画を」
 京都会館の保存要望書は、京都市が全面建て替えも視野に入れて改修を検討していた07年、まず日本建築学会近畿支部と20世紀の建築遺産保存を提唱する国際組織「DOCOMOMO」日本支部が提出した。
 更に「オペラ構想」が浮上した今年2月以降、同学会近畿支部とDOCOMOMO日本支部が再度保存を要望し、同学会本部もこれに続く。保存を強く求めると共に、市が求めれば専門家の立場から協力や助言も可能としている。

 建物の何をどう保存すれば価値が保たれるのか。同学会近畿支部の石田潤一郎・京都工芸繊維大大学院教授(近代建築史)は「新しい価値を与える改修と保存とは相反するものではない」とした上で「どの柱が残ればいいという簡単なものではないので、建物の多様な価値を踏まえながら計画を進められる体制がほしい」と話す。
毎日新聞 2011年3月27日 地方版
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■きょうの京:京都会館の改修問題 野宮珠里-「毎日新聞」


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by 2011-kyoto | 2011-03-27 00:00 | 2011/03
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