人気ブログランキング | 話題のタグを見る
2011-09-27 京都会館改築への疑問:松隈洋-「毎日新聞」
〇松隈洋関連記事は下段にリンク記載しています
 京都会館改築への疑問 松隈洋 京都工芸繊維大学教授
「近代建築の到達点」を葬るな

 
始まりは唐突だった。昨年暮れ、「京都に最大級のオペラ劇場」の記事が新聞に掲載された。100億円をかけ、京都の戦後復興のシンボルである「京都会館」(1960年開館) を国内最大級のオペラハウスに衣替えするという。なぜオペラなのか。今年に入り、その根拠が明らかにされた。京都市は、改築財源の一部として、京都会館の命名権を、契約期間50年、50億円で地元の大手半導体メーカーのロームに売却すると発表、その条件として世界的オペラを誘致できる舞台への機能拡充を求められたのだ。

 この建物は、フランスの巨匠ル・コルピュジエに学び、戦前験後の建築界をけん引した前川國男が手がけた名作として知られる。完成時に日本建築学会賞などを受賞し、近年は日本を代表するモダニズム建築100選にも選ばれた。そのため、3月には、いち早く日本建築学会会長などから相継いで市長宛てに保存要望書が提出された。しかし、6月、京都市は、建物の過半を占める第1ホールを全て取り壊して建て直す基本計画を一方的に発表したのである。

 このまま計画が進めば、過大な要求をそのまま形にした墓石のような巨大な舞台の壁が立ちはだかり、窮屈なロビーを持つ別の建物が古い部分に無粋に接続されて、琵琶湖疎水沿いの寝ち着いた外観や中庭まわりの伸びやかな空間は完全に失われてしまう。

 前川は、ル・コルピュジエに学んだモダニズム建築を日本の気候風土に定着させる努力を生涯続けた建築家だった。京都会館の設計にあたっては、戦禍を免れ、木造文化が無傷で残る町並みと豊かな自然環境になじむ建築とは何か、と自問し、禅寺を範として黒い勾配屋根と水平の庇、門のような入り口と石畳、そして外壁に焼き物のタイルを用いることによって、時間に耐え、外部に開かれた、人々のよりどころとなる簡素なたたずまいをめざした。

 古都・京都の魅力とは何だろう。それは、木造文化の遺構と共に、それぞれの時代の建物が大切に使われ、同じ時を重ねていることの中にあるのだと思う。その歴史のにモダニズム建築を加えることがなぜできないのか。

加藤周一は、東山を借景として取り込む開かれた中庭を内包し、蹴水沿いの景観になじむ水平線で統一された京都会館を、「戦後日本の近代建築におけるひとつの到達点である」と絶賛した。一方、日常的に接してきだ市民にとって、それは当たり前のようにそこにある旧友のような存在である。建築は誰のものなのだろう。降って湧いた計画によって京都はかけがえのない戦後の建築文化を失ってしまうのか、京都は何を守り育てるのか、京都会館は問いかけている。
松隈洋


2011-09-27 京都会館改築への疑問:松隈洋-「毎日新聞」_d0226819_14443170.jpg


■京都会館改築への疑問:松隈洋-「毎日新聞」

関連リンク
2010-12-24 京都に最大級のオペラ劇場-「日本経済新聞」
2011-02-08 京都会館命名権、ロームに 公募せず売却、市会委紛糾-「京都新聞」
2011-03-18 京都会館保存要望書-「社団法人日本建築学会」
2011-06-24 「京都会館再整備基本計画」の策定について-「京都市情報館」
2005-07-31 日本その心とかたち (ジブリLibrary)-加藤 周一/ 徳間書店
■京都会館について

松隈洋 関連記事
■記事/論文等
2013-10-16 現代のことば「景観の民主主義」 松隈洋-「京都新聞」
2013-10-04  所論諸論 一建築家の投げかけた問いの重さ 松隈洋-「日刊建設工業新聞」
2013-08-15 現代のことば「建築というバトン」 松隈洋-「京都新聞」
2013-07-26 ヒロシマを標に 建築に込めた平和の願い 松隈洋-「中国新聞」
2013-07-05 20世紀の遺産残す動き 世界的広がり ドコモモジャパン代表松隈洋氏-「日刊建設工業新聞」
2013-06-20 地域資源としての近代建築を発信DOCOMOMOJ代表に就任した松隈洋氏-建設通信新聞
2013-07-07 トークイベント 『残すべき建築-モダニズム建築は何を求めたのか』刊行記念のご案内
2013-03-27 力強く懐かしいモダニズムの逸品を振り返る。『残すべき建築』-「Book News」
2013-01-23 「残すべき建築: モダニズム建築は何を求めたのか」松隈洋著 刊行のご案内
2013-02-25 賛同者の皆様-「京都会館を大切にする会」
2013-02-19 建築は誰のものか-京都会館は問い続ける 松隈洋-「住宅建築2013年4月号」
2012-12-04 京都会館と20世紀建築遺産の行方:松隈 洋-「SD 2012」
2012-10-09 京都会館改築計画を問う 「美と調和」の破壊 松隈洋-「東京新聞」
2012-09-12 合意形成のプロセスー近年の保存運動から-松隈洋
2012-06-18 京都会館問題監査請求 陳述聴取会 陳述人提出資料紹介1-松隈洋
2012-02-24 所論緒論 京都会館は誰のものか 松隈洋 -「日刊建設工業新聞」
2012-02-10 建築保存に師ゆずりの闘志 京都工芸繊維大教授松隈洋さん-「朝日新聞」
2012-02-01 再読 関西近代建築:京都会館:松隈洋-「建築と社会」
2011-10-21 建てる・守る・願う6 ここに民主主義の息吹-「朝日新聞」
2011-12-10 京都会館と 建築家 前川國男の求めたもの-4 最終回 松隈洋--「ねっとわーく京都1月号」
2011-11-11 京都会館と 建築家 前川國男の求めたもの-3 松隈洋--「ねっとわーく京都12月号」
2011-10-11 京都会館と 建築家 前川國男の求めたもの-2 松隈洋--「ねっとわーく京都11月号」
2011-09-10 京都会館と 建築家 前川國男の求めたもの-1 松隈洋--「ねっとわーく京都10月号」
2011-07-25 「京都会館」と建築家・前川國男が求めたもの-松隈洋-「京都会館再整備をじっくり考える会」
2011-04-01 建築文化の根底が揺らいでいる:松隈洋-「建築とまちづくり」
2011-03 京都会館-そのたたずまいに込められたもの/松隈洋-「雑誌建築人3月号」
2010-06-14 記憶の建築 十選 昭和の公共建築「京都会館」松隈洋-「日本経済新聞」
2010-06-01 京都会館 モダニズム建築のメッセージ18-松隈洋-「建築ジャーナル」
2001-05 第5回伝統と近代の葛藤-京都会館(1960年)-松隈洋-「まちなみ」2001年5月号
2007-11-08 京都会館再整備検討委員会 摘録第1回~第6回-「京都市情報館」

■動画/音声記録等
京都会館のいま。KBS京都ラジオ番組から。2012_09_21-Daily motion
2012-09-21 KBSラジオ/妹背和夫のパラダイスkyoto 松隈洋:京都会館問題について語る-Togetter
2011-12-18 YOU TUBE 第1部 報告 松隈洋 第2回緊急シンポ 「京都会館のより良き明日を考える」
2011-10-12 You tube「京都会館へ行ってみませんか?」-松隈洋(1)(2)
2011-10-30 You tube「京都会館へ行ってみませんか?」-松隈洋(3)(4)
2011-11-06 You tube「京都会館へ行ってみませんか?」-松隈洋(5)(6)
2011-10-10 経過報告(京都会館再整備をめぐる問題点)/松隈 洋-「京都会館シンポジウム」
京都会館シンポジュウム(2011年7月13日)Youtube 岡崎公園と疏水を考える会、京都・まちづくり市民会議
  3 14:42 京都会館シンポジュウム(2011年7月13日) 松隈洋(1)
  4 11:48 京都会館シンポジュウム(2011年7月13日) 松隈洋(2)
  5 12:13 京都会館シンポジュウム(2011年7月13日) 松隈洋(3)
  6 11:22 京都会館シンポジュウム(2011年7月13日) 松隈洋(4)
2011-02-23 「京都会館再整備に関する意見交換会」Ustream.tv
「京都会館再整備に関する意見交換会」後半/2011.2.23

by 2011-kyoto | 2011-09-27 00:00 | 2011/09
<< 2011-09-26 京都会館... 2011-09-26 「岡崎・... >>