人気ブログランキング | 話題のタグを見る
1965-12-01 京都会館「五年の歩み」発刊によせて:京都市長 高山義三-「京都会館五年の歩み」
京都会館「五年の歩み」発刊によせて-京都市長 高山義三  
 勧業館前のうらさびた広場を記憶しておられる方ももおありでしょう。そこには手入れの行き届かない数本の立木と,心ない散策者に踏み荒らされた芝生があり,その向こうには青錆びた屋根をいただいた灰色の公会堂がたたずんでいました。夜ともなれば電灯の光もおぼろに,人通りもまばらな,まことに寂しい一角でしかありませんでした。

 その広場に高々と板塀がめぐらされ, 何百人もの工人の手で深々と土砂がえぐり取られ,巨大な鉄柱が次々に組みなされ,昼夜をわかたぬモーターの唸りが轟きわたること幾月,やがて壮麗な近代的建築が出現したのでした。どっしりとして重味があり,それでいて遠くは東山連峰,近くは勧業館や平安神宮を含む四囲の風物と,心にくいまでの調和を見せた瀟洒なたたずまい。それがわが京都会館であるこというまでもありません。

 文化活動とは, 「無」から何ものが高貴なものを生みだす創造活動をさしていうのですから,京都会館の建設それ自体が,一つの大きな文化事業であったといえるでしょう。

 しかしわたくしは,それにもまして会館の建設が,京都市民の内に潜む創造的意欲を刺激しそれを,思う存分発露させ発展させる「場」となることに,一層大きな意義を求め,それを念願したのでした。

 今, 京都会館開館5周年を迎えるに当り, その実績をかえりみますと, 市民の会館利用度はすでに極限に達し,和洋音楽,舞踊,演劇,各種講演,学会等々, 芸能と学芸のあらゆるジャンルにわたる文化活動の大波が,すさまじい勢いで会館に押し寄せ,それを圧倒するかのようにさえ感じられるのです。まととに篤異に価する盛況と申すべく,ただただ喜びに堪えないところであります。

 しかし,これらの活動も, 永遠に続く長い文化史の上から見ますならば, いまやっと緒についたばかりの動き,いわば一つ一つが生命の胎動であるにすぎないものといえるでしょう。それにしても,このはげしい胎動を抱きしめる京都会館の使命こそ, 実に重大なものといわなければなりません。なぜならば,会館は永遠に新しい文化創生の母胎となり,その産褥となり,揺りかごともなって, 日本文化の発展に偉大な役割りを果たさなければならないからであります。

 うらさびた広場を近代的風物詩に変貌させたその会館のように, 千年の古都わが京都に,四海に輝く不朽の文化が次々に打ち立てられる日の到来を, わたくしは, 切なる念願として, いつまでも持ち続けるでありましょう。


1965-12-01 京都会館「五年の歩み」発刊によせて:京都市長 高山義三-「京都会館五年の歩み」_d0226819_13235123.jpg

1965-12-01 京都会館「五年の歩み」発刊によせて:京都市長 高山義三-「京都会館五年の歩み」_d0226819_13225476.jpg「京都会館五年の歩み」 - 京都会館五年の歩み刊行委員会 1965年12月刊















■京都会館「五年の歩み」発刊によせて:京都市長 高山義三
関連リンク
1965-12-01 京都会館:前川國男-「京都会館五年の歩み」
by 2011-kyoto | 2011-11-02 00:00 | その他
<< 2011-11-03 京都会館... 2011-11-01 京都会館... >>