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2012-01-30 「京都会館」の建築的価値-「長瀬博一」
「京都会館」の建築的価値
2012.1長瀬 博一㈲長瀬建築研究所

一、近くの東山の穏やかな山並と疏水の流れ、緑も多く、美術館、図書館、平安神宮や武道館等の落着いた低層の文化施設集積地に相応しい大きな水平庇を廻した水平感の強い安定感のある佇まい、勾配屋根により大ホール上部のボリューム低減をはかり、景観上の突出感をなくし半世紀の間に岡崎地区の中心的風景となっている。

二、正面側(二条通側)には寺院の山門を思わす列柱がピロティを形成し、その奥には東山に開かれた中庭広場が広がり、最奥に大ホールロビー、両側には小ホールロビーと会議場ロビー、三方への人の出入が、ピロティと中庭で結ばれて、いかにも透けのきいた伸びやかな空間構成となっている。

三、人のアクセスに伴う空間の伸張性(伸展性)を強める如く、南北に走るバルコニーがあり、その高さを低めに押えてあり、そこを通過する事で大・小各ホールのロビーへ入った際、高さ方向の解放感が増す効果を発揮している。

四、利用客として奥の大ホールロビーからゲイトとしてのピロティ方向をガラス壁越しに透視すると、昼も夜間も空間の南北の伸びやかさが際立つ。(空間の水平軸の重視)

五、正面側敷地内に建設時植樹された欅は、半世紀間の成長で建築のスケールともバランス良く、見事な緑の回廊を前面に形成し、建築外観は今やその背後に見え隠れして、水平庇やピロティと並び豊かな陰影に富む景観をつくり出している。        
御存知のように箱形で軒庇もない近代・現代建築の外観上の物足りなさは、関西の伝統建築に多く見られる深い軒や大・小の庇、ロジア的な土庇や太・細の格子類、スダレ等による幾重もの陰影のグラデーションによる深味、味わいとは対遮的なものである。その点、京都会館は深い水平庇、ピロティ、東西南北に貫入するバルコニー、真壁造の架構や欅並木が相まって、これ又幾重もの陰影を生み出し、社寺仏閣の街でもある京都に相合しい骨太の和の風格が漂う近代建築である。

六、脇正面とも云える西側立面では、ツタをからませた彫塑的なコンクリート壁と日本の伝統的真壁造を想わす柱梁による簡潔な構成及び色彩上コンクリートと対比的効果を発揮している小豆色の大型タイル壁が、正面側と共に今や風格ある風景となっている。
同じく京都に於る近代建築の秀作、国立国際会議場の如き特殊な台形架構と異なり、水平垂直の一見平凡な架構は大庇や素材の扱い方で一つの普遍性のある架構美を生み出している。


七、公共建築として権威主義的に構えるところも全くなく、四六時中市民に開かれてアクセスしやすく様々な人の溜りを可能とする構成は、公共空間の在り方の模範例と言えよう。南側はピロティから、東側(公園)からは開放された中庭広場からアクセス出来、ピロティや大庇下、中庭に面した大階段やバルコニー等、随所の居場所へ誘う空間が用意されていて、人の集い、出会い、憩う場を提供している。毎年開かれてきた合唱祭や吹奏楽祭等多くのグループが集う際も、外部のそこかしこに人の溜りが出来、使いこなされる有様が如実に見られる。閉館時でも開放されているこうした居場所の豊かさこそ公共の名に値するものであろう。

八、随所の大壁面を構成する大型タイルの小豆色の色調はコンクリートの淡灰色と対比を成し何時までも飽きのこない落着いた色合いと肌理を持っている。
戦後、戦災にあわず残った京都市中を体感した設計者、前川國男が感動の言葉を残しているが、当時の洛中の集合景観は、弁柄色(小豆色)の町家が連担して町並を形成し、ムクリのついた勾配屋根のいぶし瓦の甍の波も連続し、まさに心地良い音楽を身体に浴びる如くであったであろう。私見ながらこの会館の基調色であるタイルの色は、当時の洛中の基調色と符号する色を、見事に選び出したものといえよう。

以上見てきたとおり、その拠って建つ場所性を読みきった公共建築と申せましょう。



■<京都会館 市の基本計画・基本設計の問題点>-「長瀬博一」

長瀬 博一 Hirokazu Nagase
by 2011-kyoto | 2012-01-30 00:00 | 2012/01
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