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2012-05-29 ヨーロッパからの手紙その4-「京都会館、そして岡崎地区」
ヨーロッパからの手紙その4-「京都会館、そして岡崎地区」

京都会館を考えなおすということ、基本的には岡崎地区の将来のあり方と大きく関係してくると思います。
そこで、地元の方々には思いつかないと思われる、考えるためのヒントを外部から。

そもそも平安神宮は1895年、旧大内裏の再建にあたって市街地の用地買収に失敗した結果、当時は荒れていた諸寺院の跡地に計画された、という記述がネットにみられます。
偶然とも言うべき成り行きですが、そのポテンシャルを当局が見抜き、英断によって文化地区として位置づけ、疎水沿いの親水空間の整備ともあいまって、日本では類のないゆった りとした都市的公共空間が出現したのでした。
そう、その「ゆったりさ」が、全般的にそれに欠ける日本においては、街の大きな財産なのです。

ヨーロッパの古都は19世紀に多かれ少なかれ爆発的に拡張されましたが、規模の大きな広場的空間がそのなかに意図的に残され、それが今日では立て込んだ市街地に あって、欠かすことの出来ない位置付けを獲得しています。
中欧にある都市をいくつか、検討してみましょう。
まず、日本人に根強い人気を誇るチェコ共和国のプラハ。

この街の市街地にある一番大きな広場は、19世紀に整備された「ヴァツラフ広場」です。巾60mで長さ750mの大通りとで呼ぶべき公共外部空間で、普段 はライフスタイルを誇示する目抜き通りすが、1968年の旧ソビエト軍の侵攻、そ して1989年のいわゆる「ビロード革命」に際して多数の市民が意思表示に集まり ました。
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ヴァーツラフ広場-Wikipediaより転載
つぎはドイツでも一、二をあらそう文化都市ミュンヒェン。

この街にはすでに19世紀の初頭以来、「テレジア広場(Theresienwiese)」とい う42ヘクタールの広さをもつ公共的「空き地」が確保されています。公園の充 実したこの街、普段はだだっ広い空き地ですが、皆さんご存知のビールの祭典 「オクトーバー・フェスト」の開催地で、二週間ほどで700万人の訪問者を収容 することのできる公共空間です。
そしてオーストリアのウィーン。
ここには19世紀の中葉に「ヘルデン(英雄)広場」が新王宮とともに設けられ、様々なイベントに供しています。ナチスの総統ヒットラーがこの国をドイツ に併合した1938年、25万人(立場により推測が異なるのは自然な成り行き です)が歓声を上げたのがこの広場、そして2000年に同数の市民が集まって この国の右傾化にプロテストしたのもこの広場。普段は芝生でくつろぐのに格好 の外部空間です。
さて、では京都は?

御所とか二条城とかありますが、市民の自由になる空き地ではありません。だからこそ岡崎地区は重要なのです。
その立地と規模は、上の例と比べても遜色ありません。そして公共空間として、 日本的な意味における「とき」を経て落ち着いた、一回性とでも呼ぶべきクオリ ティーが顕在しています。
まさに、いわゆる「特区」として育まれるべき特質なのです。たとえば二条通り と神宮道に交通制限を導入すれば、空き地としてのクオリティーを高めることも 可能でしょう。

どうして空き地なのか?

それは今日のイベント・カルチャーが、固定の施設ではなく必要に応じて変更の 利く仮設的な施設を前提とするようになったからです。それには必要なインフラを備えたフレキシブ ルな空き地、つまり広場の存在が前提となります。
それを主導的に活用するのは市当局の役割です。
たとえばウィーン市、どのように市役所前広場を活用しているのでしょうか?

まず年始めには「アイス・ドリーム」。7000m2のリンクと、公園内を巡る延べ600mのアイス・スケートのための回遊路が設営され、市民の人気を呼び ます。
そして5月にはエイズ撲滅基金が主宰する「ライフ・ボール」の舞台となり、国際的な注目を浴びます。ウィーン市にとっての世界へのイメージ発信効果の大きさは、計り知れません。
さて6月末から10週間、夏の観光シーズンには「フィルム・フェスティバ ル」。大スクリーンと観客席が設営されて、当地を中心とするオペラ・バレエ・ コンサート等のDVDが観光客のために、日没から無料で上映されます。併設さ れた飲食屋台の売上げには想像を絶するものがあり、市はその出店権利金で結構 な額を回収します。
秋にはサーカスが来て、そしてクリスマス。市役所前広場の「クリスマス市」はドイツ語圏でも有数の観光資源で、世界中から観光客が訪れます。
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ウィーン市庁舎-Wikipediaより転載

最後は誰もが休暇を得る年末。どこかで賑やかに、となりますが、ここに設営された舞台で講習があり、花火のあとは慣れない人でも、当地の市民のようにワル ツで新年を祝うことができ、観光客の人気を博します。
箱物を建てて一部のニーズに供するのと、「空き地」として整備して市民ならびに訪問者に広く供すること。どちらがよりサステナブルなのかは、ほとんど自明だと申せましょう。

京都会館の中庭は、まさにそういった考え方を先取りしたものなのです。
市当局の大方の職員の方々をも含む、皆様のご健闘に期待しております。

2012年5月29日 ウィーンより、
建築家 三谷 克人

■ヨーロッパからの手紙その4-「京都会館、そして岡崎地区」

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by 2011-kyoto | 2012-06-01 00:00 | 2012/05
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