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2012-10-02 京都会館「再整備」に思う 苅谷勇雅-「日本イコモス国内委員会INFORMATION8期11号」
ICOMOS ISC20C委員会から京都市長宛の意見書を受けて、
9月8日、日本イコモス国内委員会にて「第14小委員会(リビング・ヘリテージとしての20世紀建築の保存・継承に関する課題検討(京都会館再整備計画に関する検討)主査:苅谷勇雅 2012年9月発足」が設置されました。順次、関係者の方々の資料、テキスト、インタビュー記録などをご紹介していきます。

京都会館「再整備」に思う-苅谷勇雅

2012.09.05 発行
日本イコモス国内委員会 INFORMATION / JAPAN ICOMOS <8期11号>より掲載させていただきました。
1.はじめに

(中略)
京都会館の立地する岡崎地域は、洛外、東山山麓に近く、(中略)現在まで続く京都市の極めて重要な歴史文化ゾーンであり、市民はもとより国内外の人々が集まる魅力スポットである。
その中にあって、寺院の多い京都を意識した大きな庇と欄干、山門をくぐるかのようなピロティとその先へ誘う透明感、第一ホール棟・第2 ホール棟及び会議場棟のにぎわいを結ぶ中庭の佇まい、そして全体として高さを抑えて水平に広がる外観等、京都会館は周辺の歴史文化環境や景観に溶け込み、ここを訪れた多くの人々に味わいのある充足感を与えてきた。
2.京都会館再整備の検討

昨年5 月、京都市はこの岡崎地域の再活性化をめざして、「岡崎地域活性化ビジョン」を策定した。これには様々なプロジェクトが盛り込まれているが、その重要項目のひとつが「京都会館再整備」事業である。
(中略)
京都会館第一ホールは2000 人の観客を迎える京都府内最大のホールであるが、建築後50年を経て施設全般の老朽化とホール機能の前時代化など、現代ニーズに応えられない状況となっているとして、機能向上等のための具体的な数値目標(たとえば、第1ホールの舞台内高さを27m程度確保する)なども掲げられている。
3.再整備の基本設計と「建物価値継承にかかる検討委員会」

 この「基本計画」に基づいて2003年9月に香山壽夫建築研究所に「基本設計」が委託され、同年10月には京都市による「京都会館の建物価値継承にかかる検討委員会」が設けられた。
(中略)
 毎回の討議内容を受けて、香山氏の基本設計は一部変更され、それを次回の委員会で検討すると言うプロセスであった。各委員は専門家として、またそれぞれの団体や市民意見も踏まえて活発に発言しており、時に香山氏が気色ばむほどのやりとりもあった。
 とはいえ、前述のように、京都会館再整備の内容はすでに「基本計画」で方向付けられており、基本設計はこれに”基づく”ものであるので、第一ホールのほぼ全面解体・改築の方針は前提とされており、委員会の討議によっても、根本的な変更には至らなかった。
(中略)
4.京都会館再整備の課題

京都会館の再整備には大きく言って、2つの課題がある。第1は、再整備により京都会館は全体が改修され、建物の文化的芸術価値が大きく損なわれるおそれがあること。第2に、周辺景観を著しく悪化させるおそれがないかである。この2つの課題は密接な関連があり、実はほぼ同じ問いでもある。

(1)第一ホールの改築
京都会館第一ホールは音響が悪いことは周知のことであったが、現代の通常の演劇やオペラ等にも機能面で不足があり、次第に利用率が下がっている状況だという。そのため、第一ホールは、平面の外郭線はほぼ継承されるものの、解体・改築されることとなった。これにより前川建築の主要部を物理的に失うわけで、建物価値継承の点からは大きな問題である。しかし、前記の検討委員会では改築を前提とせざるを得ず、もっぱら改築後の高さやデザインが論点となった。
(中略)

(2)中庭の景観と欄干
京都会館は外部に大きな庇と欄干がめぐり、これが大きな魅力となっていることは、前述の通りであるが、基本設計では中庭からの外観について、2階レベルの現バルコニー空間をガラスで覆って増築して2つのホールと会議場を連結する共通ロビーをつくるとの基本設計が示された。建物価値の重要要素である欄干をガラスの内側に収めるこの案について、ガラスを欄干の内側(建物側)に立て、なんとか欄干を外部化できないかと、熱心な議論が続いた。しかし、結局は原案通り、欄干は内部化されることとなった。
結 び

今回、京都会館再整備計画について検討する機会を持ち、あらためて現代建築の保存活用や価値の継承について考えさせられた。すなわち、

(1)現代建築が存続するには使い続けることが基本であるが、芸術的価値、シンボル的価値、強い愛着等がある場合、機能や利便性の追求をある程度控えても、バランスを取る必要があるのではないか。京都会館の場合、物理的にはオリジナルな部分を大半失い、その他の建築的特徴を継承するということで、よかったのか。

(2)この京都会館再整備基本設計は、前川國男の建築作品について強い敬意を払いつつ、その価値の継承を図り、一方では現代建築家としての矜持をかけて香山壽夫氏が再生に取り組もうとするものである。重要文化財に指定されている高島屋東京店(高橋貞太郎設計+村野藤吾の増築設計)の例もあるが、香山氏の再整備設計が前川國男設計のオリジナル部分との共鳴により、未来に指定文化財となるかどうか、興味深い。香山氏は基本設計の説明書の表紙に「・・保存再生されつつ生き続けることは建築芸術の本質であり、また優れた保存再生とは、単に老朽化した部分を補修することではなく、時代ごとの新しい価値を、古い価値の上に重ねていくことでなくてはならない。」と記している

(3)公共的建築と景観規制
 前述のように、今回の京都会館再整備は、幾重にも設定された景観規制を市自らが突破しようとするものである。しかも、建築物としての価値はだれもが了解できる建物を一部とは言え、解体・改築するのである。高さ制限等は地区計画の決定等都市計画の変更により実現するとされるが基本計画の策定や基本設計の作業は、そのような手続き以前に行われている。このことが、市民的理解を得ることができるのか、厳しい吟味が必要であろう。

 これまで市営住宅、京大等大学施設、京都駅、京都ホテル等、大規模な公共的建物を景観上の高さ制限等を超えて、市自らが建設し、または建設を承認したことがしばしばあった。特に京都駅、京都ホテルの60m の高さの改築は市民の激しい論争を呼び、当時、景観保全担当の京都市職員であった私は、市の方針とのギャップに戸惑い、悩んだ。京都市はその激しい景観論争の反省に立ち、1994 年に市街地景観整備条例の制定等景観施策の改善を図り、さらに2007 年には眺望景観規制や都心部のダウンゾーニング等を盛り込んだ、厳しい新景観施策を議会の全員一致で採択し、今日それが市民の協力の下で実行されている。優れた建築計画が、厳しい審査と一定の条件のなかで景観規制を超えることはあり得るとしても、もし、いわゆるお手盛りと受け取られたら、景観行政は再び市民の信頼を失うに違いない。

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■2012-10-02 京都会館「再整備」に思う 苅谷勇雅-「日本イコモス国内委員会INFORMATION8期11号」

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by 2011-kyoto | 2012-10-02 00:00 | 2012/10
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