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2013-03-27 力強く懐かしいモダニズムの逸品を振り返る。『残すべき建築』-「Book News」
力強く懐かしいモダニズムの逸品を振り返る。『残すべき建築』
2013年03月27日 posted by ナガタ
建物が古くなったら取り壊して建て直せばいい。老朽化した建物は危険だし、新しい技術で建て直せば、元あったものよりも良い建物になるからだ。でも、それでも保存するべきものがある。と『残すべき建築: モダニズム建築は何を求めたのか』の著者は言う。

取り壊された建物をそのまま再現することは出来ない。時代の記憶、そこに居た人々の存在の痕跡、そういった、「建物が取り壊されてしまうときにいっしょに失われてしまうもの」を惜しむ気持ちはわからないでもない。しかし、新しく建てられるものにも、同様の可能性は開かれている。問題は、ある建物が取り壊されて消え去り、代わりに新しい建物が建つということではなくて、そのサイクルが短いスパンで何度も繰り返され、記憶が蓄積されないことだろう。本書はその「記憶の蓄積」を直截に訴えかけてくる。かつて最先端だった「モダニズム」の建築を訪ね、その価値を読みなおそうという本書の試みは、建築物の保存だけではなく、その蓄積するべき記憶の紹介でもある。
このほか、震災と戦災という2度の火災を経て改修された歌舞伎座のような現在はもう失われてしまった建築、同潤会アパートのような失われゆく建築、あるいは法政大学55・58年館のような存続が危ぶまれている建築など、多くの建物が紹介されている。ときに建築家の発言を引き、あるいは著者自身が建物を訪れたときの所感や思い出をエッセイ風に綴る。10年後、20年後に読み返した時に本書に取り上げられた建物のうち、どれだけのものが保全されているだろうか。
目次

世田谷区民会館・区庁舎(前川國男)
東京中央郵便局・大阪中央郵便局(吉田鉄郎)
旧・飯箸邸(現「ドメイヌ・ドゥ・ミクニ)(坂倉準三)
歌舞伎座(岡田信一郎/改修 吉田五十八)
新朝日ビルディング(竹中工務店 小川正)
公団阿佐ヶ谷団地(テラスハウス標準設計 前川國男/全体設計 日本住宅公団東京支所建築部)
洲本市立図書館(鬼頭梓)
同潤会上野下アパート(財団法人同潤会建設部建築課)
桂カトリック教会(ジョージ・ナカシマ)
日土小学校(松村正恒)
神奈川県立図書館・音楽堂(前川國男)
聖ポール教会(アントニン・レーモンド)
愛知県立芸術大学(吉村順三・奥村昭雄+東京藝術大学建築科教室)
蛇の目ミシン本社ビル(前川國男)
代官山ヒルサイドテラス(槇文彦)
東京都葛西臨海水族園(谷口吉生)
東京都美術館(前川國男)
京都会館(前川國男)
上野市庁舎(現・伊賀市役所)(坂倉準三)
松井田町役場(現・松井田文化財資料室)(白井晟一)
法政大学55・58年館(大江宏)
京都市水道局山ノ内浄水場(増田友也)
ベトナム戦争記念碑(マヤ・リン)
イエール大学インガルス・ホッケー・リンク(ユーロ・サーリネン)
イエール大学アート・ギャラリー(ルイス・カーン)
イエール大学学寮(ユーロ・サーリネン)
ペンシルヴェニア大学リチャーズ医学研究棟(ルイス・カーン)
エシェリック邸/フィッシャー邸(ルイス・カーン)
旧・ワシントン郵便局(現「ナンシー・ハンクス・センター」)(W.J.エドブルック/保存再生 A.C.ムーア)
別府市公会堂(現・別府市中央公民館)(吉田鉄郎)
倉敷国際ホテル(浦辺鎮太郎)
羽島市庁舎(坂倉準三)
宇部市民館(現・宇部市渡辺翁記念館)(村野藤吾)
広島平和記念資料館(丹下健三)
森の中の家(吉村順三)
神奈川県立近代美術館(坂倉準三)

残すべき建築: モダニズム建築は何を求めたのか

松隈 洋 / 誠文堂新光社


■力強く懐かしいモダニズムの逸品を振り返る。『残すべき建築』
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