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2013-08-09 カルチャーインサイド:止められるか、近代建築解体 保存活用へ新たな動き-「毎日新聞」
カルチャーインサイド:止められるか、近代建築解体 保存活用へ新たな動き
毎日新聞 2013年08月09日 大阪朝刊

◇神戸・塩屋「旧ジョネス邸」−−買い取り目指し地域で合同会社

 東京・歌舞伎座、大阪中央郵便局、京都会館−−。戦前から戦後にかけて建てられた近代建築の取り壊しが、近年相次いでいる。神戸・塩屋にある大正期の洋館「旧ジョネス邸」も、解体の危機にある建物の一つで、保存・活用を訴える住民らと所有業者との話し合いが続いている。住民らは今月6日、建物買い取りを目指し、合同会社を設立した。こうした動きについて、専門家は「地域主体型」の運動として注目。一方、建築保存の法制度上の問題点も指摘している。【清水有香】

 神戸の西端、海に山が迫る垂水区塩屋地区。明治以降、外国人の居住地として発展したが、戦後の開発などで洋館の多くは失われた。旧ジョネス邸は海岸沿いに現存する唯一の洋館。1919(大正8)年、英国人貿易商フレデリック・ジョネスの邸宅として建てられた。木造2階地下1階建て。寺社の建築装飾などを盛り込んだ和洋折衷で、兵庫県の「近代住宅100選」にも選ばれている。昨秋、穴吹興産(高松市)が同邸を取り壊し、10階建てマンションを新築する計画が明らかになった。

 地元住民らは今年3月、「旧ジョネス邸を次代に引き継ぐ会」(森本アリ代表)を発足。土地建物価格3億6000万円で買い取りを目指している。森本代表は「『擬和風建築』という、こんなに面白い建物は他にない」と語る。一方、穴吹興産は6月末、同会から提出された解体延期要請の念書を受け、9月末まで計画決定を引き延ばす考えを示した。穴吹興産側は「要望があったので受け入れた。開発計画は中断しているが、なくなったわけではない」と説明する。

 「旧ジョネス邸は、地域の人を中心に保存活動が広がった珍しい事例」と指摘するのは、近代建築の保存問題に取り組む大阪市の岡崎行師(ゆきじ)弁護士。岡崎さんによると、保存運動は建築の専門家や行政が中心になることが多いという。

 昨年、戦後の木造建築で初めて国の重要文化財に指定された愛媛県の日土(ひづち)小学校(八幡浜市)もその一例。建築家の松村正恒が設計し、1956〜58年に完成。川にせり出したベランダなどが特徴で、開放的な空間が評価された。当時、同市教育委員会で施設担当だった梶本教仁さんは「(校舎は)地域にとって当たり前の存在だった。外部の専門家が価値を見いだしてくれた」と振り返る。さらに、「所有者である市が、保存を目指す強い意志を持っていた」とも。

旧ジョネス邸を巡っては、日本建築学会近畿支部も保存活用を求める要望書を5月、穴吹興産に提出した。同支部の笠原一人・京都工芸繊維大助教(近代建築史)は、「建築デザインとしても、塩屋地区の建築遺産としても価値がある」と評価。一方、現行制度下での近代建築保存の限界も指摘する。

 例えば、文化財保護法では運用上、文化財の指定や登録に「所有者の同意」が必要とされる。文化財になれば、改修費の補助や固定資産税の減免措置などが受けられるが、活用に対する資金補助はない。維持管理にかかるコストを懸念し、慎重になる所有者も多いという。笠原さんは「欧州では、ほとんどの国で所有者の同意を必要としない。このままでは、日本の価値ある近代建築を守れない」と危機感を募らせる。

 さらに、建築基準法が求める安全性の「壁」もある。同法が定める耐震基準を満たすために多額の経費がかかったり、改築が難しかったりして、やむを得ず解体されるケースが多いという。これに対し、神戸市は2010年、一定の安全性を満たせば同法の適用を緩和できるよう条例を改正。京都市も9月議会で、同様の条例改正案提案を予定しており、自治体主導で保存の道を模索するケースもみられる。

 草の根レベルでも、より良い保存制度確立を目指そうと、有志の弁護士と建築関係者らが今年1月から勉強会を始めた。大阪市で隔月、毎回30人程度が参加。進行役の岡崎さんは「(保存問題で)最大のポイントは、所有権絶対の原則。建築を残す上で、所有権がどこまで優先されるのかをまず考える必要がある」。東京でも同様の集まりが今年から開かれており、論点を共有しながら、将来的な法改正も視野に議論を進めていくという。

  ◇

 保存を考える上では、活用法も大きな課題だ。「引き継ぐ会」は今月6日、旧ジョネス邸を活用運用する主体として、森本代表ら3人で合同会社「塩屋百年舎」を設立。イベント企画や飲食店経営などの事業を担う。「引き継ぐ会」は一般社団法人化に向け手続き中で、「百年舎」には出資、「引き継ぐ会」には寄付という形で買い取り資金を募る。「百年舎」社員の信森徹さんは「特別な施設ではなく、住民が日常的に利用する中で、建物の存在価値を肌で理解していくことが必要」と話している。問い合わせは「引き継ぐ会」(078・220・3924)。
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■カルチャーインサイド:止められるか、近代建築解体 保存活用へ新たな動き-「毎日新聞」

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by 2011-kyoto | 2013-08-09 00:00 | 2013/08
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