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2013-12-23 社説:新国立競技場 五輪の後を考えよう-「毎日新聞」
社説:新国立競技場 五輪の後を考えよう

毎日新聞 2013年12月23日 東京朝刊

 見栄えのよさを優先するあまり、「負の遺産」にしてはいけない。2020年オリンピック・パラリンピックの主会場となる国立競技場(東京都新宿区)の建て替え計画はさまざまな問題点を含んでいる。巨額の総工費や歴史的景観への影響だけでない。五輪後の収支の見通しは甘く、疑問と矛盾に満ちている。

 8万人収容で、開閉式の屋根を持つスタジアムについて、建築家らが「大き過ぎて明治神宮外苑の歴史的景観を損なう」などと見直しを求めたのに対し、国立を管理、運営する日本スポーツ振興センター(JSC)の有識者会議は総面積を縮小したものの「8万人」「屋根付き」については五輪招致における「国際公約」であるとして譲らない。

 JSCの見直し案によると、総工費は周辺整備費や解体費を含め1852億円。国際デザインコンペの結果を踏まえた試算の3000億円からは大幅に圧縮されたが、それでもコンペの応募条件だった1300億円を上回っている。今後、建築資材などの高騰が予想され、総工費が膨れ上がることは必至だろう。

 収支計画も問題が多い。大規模スポーツ大会やコンサートなど文化芸術イベントによる収入45億5500万円に対し、管理運営費などの支出は41億4800万円で、年間4億円程度の黒字が見込まれるという。

 年間の利用日数は48日間で、内訳はサッカー20日、ラグビー5日、陸上11日のほか、文化芸術イベントが12日となっている。集客に最も不安があるのが陸上で、国内の人気度を考えれば、世界選手権でさえスタンドを埋められるかどうか。

 日本選手権を開催するには、練習用の全天候型サブトラックの設置が競技規則で義務付けられている。五輪では近くの軟式野球場に仮設のサブトラックを造って対応する予定だが、今回の建て替え計画には常設サブトラックは含まれておらず、全国高校総体も開催できない。陸上競技場としては致命的な欠陥だ。常設のサブトラックを造るためには用地買収などで新たに数百億円がかかるという。用地の確保が困難とすれば、新国立はサッカーやラグビー専用の球技場とした方が賢明ではないか。

 有識者会議のメンバーで音楽家の都倉俊一氏はスポーツよりも文化芸術の方が大規模イベントの需要が多いと指摘する。コンサート開催では年間10億円以上の収入が見込まれ、音響効果を高め、防音効果もある開閉式屋根は必要となる。だが、日照時間が制限されるため芝生の育成にはマイナスとなる。

 あちらを立てれば、こちらが立たないという状況で五輪後を見据えた計画の練り直しが必要だ。

■社説:新国立競技場 五輪の後を考えよう-「毎日新聞」
by 2011-kyoto | 2013-12-23 00:00 | 2013/12
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